上京して一年が経とうとするある日、千葉県に住んでいる友達と遊ぶ約束をした。彼女は地元の同級生で、二人とも就職をきっかけに地元を離れていた。せっかくお互い関東に住んでいるし、ということで、その日は鎌倉に遊びに行った。

大仏を見たり、神社に行ったり、海鮮丼を食べたり。定番の観光コースを一通り回った。生しらすは時期ではなかったので、釜揚げしらすになってしまったけれど、それはそれで美味しかった。
続いて、江ノ電に乗って江ノ島へ向かった。小さな電車に揺られて、窓の外に見える海を眺めた。地元にも海はあったのに、いざ目の前にすると胸が高鳴るのは、もはや人間の性なのかもしれない。
江ノ島でも、私達は田舎者丸出しで、歩いては食べてを繰り返した。
彼女と一緒に江ノ島に行くことになるとは、地元にいる時は想像もしていなかった。いまいち現実味のない、ふわふわした心地は、普段よりも少し、私達の気分を高揚させた。

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帰りがてらもう一度鎌倉に戻り、気になっていたアクセサリーショップに立ち寄った。その店は、デザインやサイズなどをオーダーし、職人がその場で手作りしてくれるアクセサリーが人気だった。私達も、それぞれ好みのデザインの指輪をオーダーした。
指輪の製作中、店内をうろうろしていると、私はある商品に目を奪われた。

スライスダイヤと呼ばれる、平らにカットされたダイヤモンドをあしらったネックレス。よく見ると、ダイヤモンドの中には、あえて取り除かなかった不純物が柄のように入っており、個性的な輝きを、さりげなく放っていた。
今まで出会ったネックレスの中で最も可愛かったが、値段はちっとも可愛くなかった。しかし私は、すっかりその輝きの虜になってしまった。

半分友達にそそのかされて、半分覚悟を決めて、私は当時の家賃よりも高いネックレスを購入した。
思わぬところで散財してしまったものの、物も人も一期一会。出会いは大切にすべき、ということにした。一生涯の相棒を手に入れて、後悔はしていなかった。
すっかり日が落ちた頃、私達は浮かれ気分で小旅行を終えた。

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数週間後のある朝、私はバタバタしながら、デートの支度をしていた。余裕を持って起きたはずなのに、気がつくと出発時間が迫っていた。
後で着けようと、買ったばかりのネックレスをポケットに入れて、私は家を出た。

彼の車に乗り込み、ポケットからネックレスを取り出すと、細いチェーンが絡まっていた。どうしてもその日にお気に入りのネックレスを着けたかった私は、内心焦りつつも、なんでもない顔で彼と会話しながら、絡まったチェーンと格闘した。そこそこ長時間苦戦した結果、無事に解くことができた。一安心して、彼とのデートを楽しんだのだが、その日以降、私と彼が会うことはなかった。

恋人への想いを、縺れたネックレスに例えて歌う大好きな曲のフレーズが、まるで自分だった。

一目惚れして、我慢できずに買ったネックレスに、苦い思い出がこびりついてしまった。今でもそのネックレスを見る度に、あの日の記憶がチラつくけれど、それでもやっぱり、可愛いものは可愛い。お気に入りはお気に入りのままだった。
輝くダイヤモンドも、背伸びした思い出も、大事に胸に留めて、これからも愛でていこうと思う。