2022年の冬、第一子を出産し、入院していたときのことである。私は4人部屋で産後の6日間を過ごした。隣のベッドとの仕切りはカーテンのみで、距離も近い。特別意識していなくても、産婦と看護師の声や赤ちゃんの泣き声がよく聞こえた。

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コロナ禍ということもあり、面会は家族さえも完全禁止だった。家族は退院する日に初めて赤ちゃんに会える。院内でも自分のベッド以外ではマスク着用がルールだった。昼間にスマホでビデオ通話をすることはできたし、産科や小児科の先生は優しく、看護師さんもとても親切だった。だから心細くはなかったが、気軽に誰かと話せる環境は恋しかった。

お昼ご飯のパスタが美味しかったとか、新生児室からタオルでお雛巻きにされて帰ってくる赤ちゃんが可愛いとか、何でもないことを誰かと話したかったのだ。早く退院して夫に色々なことを話したいと思いつつ、生まれたばかりのふにゃふにゃの赤ちゃんを一生懸命抱っこした。

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入院4日目の夕方頃、空いていた向かいのベッドにバッグや服などの荷物が置かれていた。産婦さんが移動してくるようだった。しばらくすると、向かいのベッドから「コット(新生児を乗せるキャリーベッド)を2ついれると病室がギュウギュウですね」なんて声が聞こえてきた。

2人分の赤ちゃんの泣き声も聞こえる。どうやら向かいの産婦さんは、双子を出産したらしい。私は1人の赤ちゃんの対応にてんやわんやしているのに、2人のお世話をするなんて尊敬しかない。

入院5日目の朝、ななめ向かいの産婦さんと赤ちゃんが退院して行った。入院中はどの赤ちゃんも病院が用意した白い肌着を着ていたが、その赤ちゃんは白いセレモニードレスに着替えていた。すれ違う時に見ただけだが、リボンとレースのついたドレスで、本当に可愛かった。

一方私は、退院時の服を特別用意しておらず、ごく普通の新生児服を持ってきていただけだったので、セレモニードレスを用意してもよかったなあなんて思った。あまり着ないものをわざわざ買わなくていいと思っていたが、実際に赤ちゃんが着ているのを見ると良く思える。

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初めての出産で、入院中に思うことはたくさんあったのに誰とも共有することなく、覚えておきたいことはスマホのメモ帳に書き留めた。

大きな病院だったので、同室の人以外の産婦さんも何人も見たが、すれ違ったときに、おはようございますと挨拶をしたくらいで、会話は全くなかった。他の人とたわいもない会話をしてみたかったが、コロナ禍で気軽に話しかけていいものか分からなかったし、勇気もなくて話しかけられなかった。

今住んでいる場所は、夫の転勤で来た土地なので、未だに知り合いはいない。当然、子どもを持つ知り合いもいない。分からないことはネットで調べ、ちょっとした愚痴はSNSに書く毎日だ。悪くはない毎日だけれど、息子と同じくらいの年齢の子どもを持つママと少しでも話せたら心強かったなあとは思う。

勇気を出して、あの時話しかければよかったなあ。