大学生になり、わたしは個別塾のバイトを始めた。その個別塾自体は、わたしが高校生になって受験間近にお世話になったところで、そのまま担当講師と教室長に誘われて、講師になった。

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元々知っている講師陣に、同僚として加わったのだから、それはそれは楽しかった。生徒からの持ち上がりということで、同学年に比べると、先輩たちとの関係性にアドバンテージもあり、ちやほやされる座を一目散に手に入れた。
講師はほとんどが大学生だったので、サークルのような雰囲気で、バイト終わりに酒を飲んで終電を無くしては、朝方帰った。
男の先輩たちに混じってお酒を飲んで、いつものメンバーとして認められていることが、小中高と異性として意識されることに無縁だったわたしの心の柔らかいところを、癒して認めて、肯定してくれたんだと思う。今までの何よりも楽しくって、そのコミュニティに夢中になった。
もともと必要とされることが嬉しいわたしは、あれよあれよという間に、立派な社畜になり、扶養計算に追われていた11月頃に、先輩たちの中から彼氏ができる。

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酔っ払ってキスをして、その気になって始まった、10ヶ月の恋だった。お互いに勝手に求めて、勝手に傷つけて、言わなくていいことを我慢できなくなって終わった。

浮気もされたし、携帯を勝手に見て彼を詰めたし、ペアリングを指ごと取って投げ捨ててやろうかと思ったこともあったが、なぜか離れられず、それでも付き合い続けた。だがしかし、見逃した違和感はだんだんと大きくなり、彼と居ると公私関係なくイライラすることが増えてきてしまった。関係性に甘えた私からの容赦のないダメ出しを繰り返された彼は、その期間に胃に2回穴が開いていた。最終的には「嫌いになった訳じゃないけど、もっと良い人がると思う」という、彼からの限界サインで振られた。
今思えば、めちゃくちゃだった。不安な気持ちに支配された、ジェットコースターみたいな10ヶ月だった。
一応、甘酸っぱくて幸せだった思い出もある。彼とは、バイト帰りによく一緒に帰って、わたしの家の近くの階段から、ちょろっとしか見えない横浜駅の夜景を見ては、綺麗だと言っていた。自分たちだけのちっぽけな景色が、なんだかとっても誇らしかったのを覚えてる。

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あれから5年以上が経った今、残業続きの飲みにも行けなかった疲労困憊の金曜日に、彼が好きだと言った青い光を、ふと見上げることがあった。
毎日パソコンと睨めっこし、当時よりもかなり視力の下がった目で見た青い光は、はっきりと、スカイビルのSのマークだった。
誰かに預けることなく、自分の心の柔らかいところをしっかり大事にできているわたしには、もう魔法はかかっていないらしい。
エモーショナルな気持ちになることなどなく、当時の自分たちの滑稽さに涙が出るくらい笑って、なんだか5年分すっきりした。
当時と一緒で、うまくいかないことももちろんたくさんある。でも、思い通りにならないことも含めて楽しめているわたしは、他人に期待せず自分の機嫌を自分で取れているのだろう。
ようやく元彼の胃腸の健康を願えたわたしは、残業続きのこの夜、大人になっていることをそっと実感した。