2020年3月、私は海外旅行を計画していた。1年近く前から友達と予定を合わせ、入念に情報収集し、ホテルや航空券の手配を済ませ、旅のしおりまでばっちり作って、その日を待ちわびていた。

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しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、搭乗予定だった飛行機の運航が停止してしまった。未知のウイルスの出現で、世界中がパニックに陥った結果、私達の旅行は中止を余儀なくされた。それは、出発日の3日前のことだった。

あまりにも直前の中止に、私達は完全に打ちひしがれてしまった。お互い「しょうがない」と必死に割り切ろうと、なるべくこの話題に触れないようにしていた。いっそ仕事をしようと有給休暇を取り消そうにも、当時の勤め先の飲食店は苦境に立たされていた。客足が遠のいている店に、私が出勤したところで無意味だった。

大人しく家にいるしかない。でも、じっとしていればいるほど、混沌とした世界の不安と、海外旅行に行けなかったショックに押し潰されそうだった。

そこで私は、一人旅に出ることにした。

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自家用車で温泉宿に直行し、人との接触を最低限に抑えて旅行しようと考えたのだ。とにかく現実逃避したかった私は、車に飛び乗りアクセルを踏んだ。

その日は桜が咲き始めた頃だった。しばらく走った先の地元で有名な桜並木に立ち寄ると、人はほとんどおらず、束の間の花見を楽しむことができた。

さらに2時間程、曲がりくねった山道を登った先にある宿に到着し、チェックインを済ますと、私はベッドに倒れ込んだ。誰もいない静かな部屋の窓からは、豊かに生い茂った緑と、遠くに海が見えた。

しばらくして夕食を取り、大浴場へ向かった。長旅の疲れと荒んだ心は、温泉のお湯に溶けていった。

翌日は前日と打って変わって、生憎の雨模様だった。チェックアウトを済ませ、海の方まで行ってみたものの、お世辞にも綺麗とは言えない景色になってしまったので、のんびり帰路につくことにした。

高速道路を走り出すと、気付けば土砂降りになっていた。ワイパーの忙しない往復と、代り映えのしない景色に飽きてきた時、突然後方からパトカーのサイレンの音が聞こえた。
追い越し車線を走っていた私は、左車線に滑り込んで道をあけた。すると、パトカーは私を追い越したかと思いきや、車線変更をして私の前に入ってきた。パトカーの後方窓部分には「パトカーにつづけ」の文字。初めて見たその表示に戸惑っていたが、どうやらそれは私に向けられているようだった。

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最悪だった。最悪の気分だった。まるで犯罪者のようだった。そこから10分以上誘導され、パトカーは次のインターチェンジで降り、私も後に続いた。とんだ晒し者だった。

車を路肩に停車して、警察官にパトカーに乗るよう指示された。私が捕まった理由は、長時間追越車線を走り続けていたからだった。

自分のしょうもないミスのせいで見せしめにされた挙句、罰金まで取られるなんて。初めて乗ったパトカーの後部座席で、私は絶望やら怒りやら後悔やらの、湧き上がる負の感情で爆発しそうだった。

その後、二度と追越車線なんか走るもんかと、超絶安全運転で帰宅し、振込用紙という余計なお土産付きの一人旅を終えた。

傷心旅行のつもりが、むしろ傷を増やして帰ってきてしまった。やっぱり家で大人しくしておくべきだったのかもしれない。

史上最悪の一日を終えた私は、無事故無違反のゴールド免許取得を決意したのだった。