本当の意味で「誰にも言えない」のなら、本来はここに書くこともできない。
そして私の場合は、癖というよりも生理現象だ。
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公然と人に話すことが憚られる生理現象が、私には1つある。
不特定多数の目にさらされるインターネットの海で、馬鹿正直に書いていいものか非常にためらった。それでも、「誰にも言えない私の癖」という今回の募集テーマを一目見たとき、私の頭にはアレしか思い浮かばなかった。
ただ、逆に言えば、インターネットの海は果てがない。想像できないほどに広い。
そんな大海原に放った私の文章なんて、米粒ほどのサイズにも満たないかもしれない。
それだけちっぽけなものならばまあいいかと、開き直ることにした。
それに、同じように悩んでいる女性もきっとどこかにいるのではないかとも思う。だって、「生理現象」なのだから。意図せず起こってしまうものなのだから。
「大丈夫、あなただけじゃないよ。実は私もなんだよね。しかも相当ヤバいみたいなんだよね」と笑い飛ばす感じで、同士に向けてこそっと書いてみようと思う。
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結論から言うと、「いびき」だ。
夫と付き合い始めた頃、「そういえば」とふと気になり、何気なく質問してみた。
「私って、いびきとかかいてたりする?」
彼も何気なく「うん、結構かいてたよ」とさらっと答えたものの、私にとって彼の答えは全く何気ないものではなかった。改めて突きつけられた事実はそれなりにショッキングなもので、その後彼はご丁寧にいびきの再現(就寝中の私のモノマネ)もしてくれた。
きっととても忠実に再現してくれているであろうことは伝わってきたものの、それは自分の心にさらなる深手を負うものだった。全く可愛げのない寝姿に、いつか愛想を尽かされてしまってもおかしくないのではと大変な危機感を覚えた。
いびきをかいている自覚はなかったものの、彼と付き合う以前も何度か人から指摘されたことがあった。もっとさかのぼれば、小学生の頃に一度だけ母に病院に連れて行かれたこともある。いわゆる睡眠時無呼吸症候群であることを疑われたのかもしれない。マスクをして寝るようにお医者さんからアドバイスを受けたことだけは、何となく覚えている。
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実家にいた頃は妹とずっと隣で寝ていたものの、幸か不幸か妹の眠りはとても深かった。目を閉じたら爆速で入眠するタイプで、翌朝まで何があっても絶対に目を覚まさない。そのため、妹から「いびきうるさいんだけど」といったようなクレームが飛んできたことはまずなかった。
夫とは、付き合い始めてわずか1ヶ月で一緒に暮らすようになった。
同棲するとなると、当たり前だがデートしてバイバイというわけではない。毎日同じ家に帰って、同じ夜を共に明かす。しかも、一人暮らしをしていた私の部屋に彼が転がり込んでくる形で始まった同棲生活。狭い1Kのその部屋に置いてあるのはシングルベッドだった。
かと言って買い替える気もあまり起きず、私たちはシングルベッドで身をぎゅうぎゅう寄せ合いながら寝ることとなった。
「耳元でね、毎日爆音だよ。まりちゃんのいびき」
女の尊厳が失われてしまいそうな事実を何でもないことのように突きつけてくる彼に、私は尋ねた。
「騒音公害を毎晩受け続けて、よく嫌にならないね…?」
彼の答えはというと「なんか、フツーのことだと思ってたんだよね」と、さらっとしたものだった。
「うち、母さんも父さんも両方いびきすごかったから。だからまりちゃんがいびきをかいてても、別に何とも思わないよ。今夜もご機嫌だなあって思うくらいかな」
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なるほどご両親もだったのか…とか、ご機嫌なのか私は…とか、あらゆる感想がぐるぐると渦巻いて反応に困ってしまったものの、とりあえずいびきをかく私に彼が愛想を尽かす様子はなさそうだったので、私は一旦安堵した。ちなみに、かくいう彼は全くいびきをかかない。いびきどころか、彼の寝顔は驚くほどに天使だ。おかげで私の写真フォルダはお昼寝中に盗撮した天使であふれ返っている。
ただ、とあるタレントさんのYouTubeチャンネルで、ゲスト出演していた芸人さんが「夫婦一緒に寝ていると長生きできないかもしれないらしい」といった話をしていたことがあった。例えば、就寝中に片方がちょっとでも身体を動かすと、もう片方の睡眠のリズムを僅かながらでも崩すことになる。睡眠の質があまり良くない状態が積み重なると、結果的に健康に害を成す可能性がある、ということらしい。いわゆる「塵も積もれば山となる」なのだろうか。
あくまで「かもしれない」の話ではあったものの、信憑性は意外と高いんじゃないかと私は思った。なぜなら、私と一緒に暮らすようになってから、彼は昼寝の時間が格段に増えたというのだ。つまり、夜の間は誰かさんのいびきがうるさいせいで深くは眠れておらず、その皺寄せが日中に来てしまっているのではないか。そう私は推測した。
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私のいびきが原因で彼の寿命が縮むなんてとんでもないことだと思い、夫婦別寝を2人の間で検討してみたこともあった。ただ、結果として今の所は「口閉じテープを貼る」という対策で落ち着いている。口閉じテープとはその名の通り、いびきや喉の乾きを抑えるために口に貼るテープのことだ。口に大きなばってんが貼られた私の姿を見て、「ミッフィーみたいでかわいいじゃん」と彼は言ったが、相当マヌケな姿を晒していることは鏡を確認せずとも想像できた。
とはいえ、確かに多少音量は下がったものの、強制的に閉じられた口の中からくぐもったような音が今でも夜間に発生はしているらしい。私としては、いびきがぴたりと止むことを期待していたのに。机の上に置いてある、Amazonでまとめ買いした大量の口閉じテープをじっと睨んだ。効果、無いじゃないか。
ただ、ここ最近の彼は以前と比べるとあまり昼寝をしなくなった。ということは、夜はぐっすり眠れているのだろうか。いびきで受けるダメージが減っているのだろうか。
いびきがどんなにうるさい女でも、変わらず一緒にいてくれる心の広い彼にはどうか長生きしてほしい。そのためにも、私はこの困った生理現象をどうにかしていきたいと思っている。