夏がやってくる。
私にとってそれは、「浴衣の季節がやってくる」と同義だ。

今年もまた、浴衣の準備をしなければならない時期が迫っている。

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どうしてこんなにも、浴衣に心惹かれてしまうのだろう。
着物は一年中好きだけれど、汗をかきやすいので、初夏から秋頃にかけては着物を着るモチベーションがぐっと下がってしまう。

そして、その着物欲の低下に反比例するかのごとく、浴衣への情熱が湧き上がってくるのもこの時期なのだ。

浴衣にはロマンがある。
「夏」と聞いて思い浮かぶ素敵なことたち――海、花火、夏休み、夜空、すいか、水風船など――をぎゅっと凝縮したような、きらきらしたオーラをこの身にまとっているような気分にさせてくれる。

洗って干しているさまも、夏の終わりに畳んで仕舞いこむときの様子も、どこか風情があってうっとりとしてしまう。

嗚呼、浴衣のことが心底好きだ。
だからこそ、浴衣の準備は早めに始めなければいけない。

なんだかんだ言っても暑いので、ひと夏の間に浴衣を着る回数はそう多くない。
数少ない機会に、どれだけお気に入りの浴衣コーディネートができるかが勝負なのだ。

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昨年までは、いかにもレトロな浴衣らしい、彩度が高く個性的なデザインのものを着たくて、アンティークの浴衣を販売している呉服店やフリマアプリをくまなく見て回っていた。

しかし、今年になってまた気分が変わった。
何歳になっても気負わず着られるような、すっきりとシンプルな浴衣が欲しくなったのだ。
ストライプやチェックがさりげなくデザインされた、白や青の浴衣に心惹かれる。

淡い色彩の、儚げな佇まいの浴衣に、飴色の籠バッグや下駄をあわせてみたくて仕方ない。

とはいえ、体はひとつ。資金は有限。
欲しいと思ったものすべてを購入するわけにはいかないので、厳選に厳選を重ねて、来年以降も着たくなるような浴衣アイテムたちを揃えなければならない。

特に曲者なのが、帯の存在だ。
「着物一枚、帯三本」とよく言われるように、同じ浴衣でも帯によってがらりと印象が変わる。だからつい、あらゆるデザインの帯を集めたくなってしまう。

浴衣帯と呼ばれる、ふわふわとした金魚の尾のような布がついた帯も捨てがたいけれど、夏の間しか使えないのが難点。

その点、半幅帯はオールシーズンに使えるけれど、せっかくなら夏らしいデザインの帯が欲しくなってきてしまう。
悩みに悩んで、わけがわからなくなってきてしまったので、自分にとっての「理想の夏」のイメージを思い浮かべてみた。

輝く日差し。水彩絵の具をさあっと塗り広げたような、美しい青空。
木々が落とす影が地面にくっきりと浮かび、時折吹く風にあわせて揺れる木漏れ日が、影とのコントラストを際立たせる。
そして、まるでそこだけ涼しげな気配が満ちているかのような、爽やかな浴衣姿の私がいる。

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ここまで書いていて恥ずかしくなってきたのだけれど、なんとなく今年の浴衣のイメージは固まった。

やっぱり、金魚みたいなひらひらがついた浴衣帯が欲しい。
全体の色彩は白や青系で統一して、そこにカラメル色のカンカン帽をあわせたい。
シンプルなデザインの浴衣は、もし現物が見つからなければ、反物を買ってお仕立てに出すのもいいな、と思った。

今年の夏に理想の浴衣姿が叶わなくても、きっと来年、再来年になってもこのコーディネートをしたくなるはず。

いつか「理想の夏」のイメージを実現できるその時に向けて、少しずつアイテムを探しながら貯金に励むのも楽しそうだな、と思えてきた。