一目惚れをしたことはありますか?
一目惚れとは、その言葉の通り、目から得た情報でその対象に心を奪われることであろう。男女問わず、容姿端麗な人を見かければ、心が動くことはあるが、その一瞬でその人に惚れてしまうことは今まで生きてきた中で経験したことがない。
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邦楽ロックが好きな私は、ライブに行くことを生き甲斐に毎日を過ごしている。社会人になったら、学生の頃より圧倒的に自由な時間がなくなる。それを頭で理解していた私は、行けるライブがあったら行きたいという思いのままライブに行こうと決めていた。その日も仕事終わりに1人渋谷のライブハウスに足を運んだ。大阪発のTRACK15というバンドが主催するツアーの東京編で、Arakezuri、Absolute area、リアクション ザ ブッタ、計4バンドが出演するイベントだった。私はなぜかトリを飾るであろう主催者であるバンドだけ知らなかったが、そのバンドを含め、ライブに行けることを楽しみにしていた。
4時起き。歩数3万歩。シフト制で仕事をする私は、ライブハウスに足を踏み込み、サウンドチェックが行われている間に早々と体力の限界と睡魔を抱えていた。演奏が始まると、その曲が身体の重さと眠気を取っ払い、幸福感で満たしてくれる。私は、好きなバンドの演奏から、エネルギーを貰い、心の穴を埋めていた。だが、転換の時間になる度、感じていた幸せの色が薄まり、足腰が重くなるのを身に染みて感じていた。
トリのバンドを目の前に、限界の限界を感じ、座りたいと心の声が鳴り止まなくなる。座りたい。でも、観てみたい。そんな思いが何度か心の中で交差したが、観てみたいという思いが弱音に打ち勝った。
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優しいタッチでそのバンドの曲が始まった。それは本当に一瞬だった。演奏が始まり、歌声を聴いた瞬間、心を奪われてしまった。今まで足を運んだライブやフェスで初めて観るバンドはあったが、この感覚は初めてだった。その歌声に、メロディーに、瞬時に惚れてしまった。一耳惚れだった。猫背になっていた私の背中は真っ直ぐに伸び、前のめりになっていた。もっと聴きたい、もっと知りたい。そんな思いが身体中を巡り、私を襲った。最後の曲が終わるまで、一耳惚れの状態は続き、その想いを家にまで持ち帰った。一耳惚れという言葉は存在しないが、あの時、あの瞬間、私は耳から得た情報で瞬間的に心を動かされたのだ。これは決して、目ではなく、耳だった。
一目惚れときくと、恋愛に直結している言葉のように感じるが、私が経験した一耳惚れは、それとは似ているようで違った感覚だった。一目惚れをし、心を奪われると、その人が視界に入っただけで、心が動き、どきどきさせられるのだろう。ライブで一耳惚れをした時は恋が始まったかのような心臓の奪われ方をしたが、ライブの後にそのバンドの曲を何度も何度もリピート再生しても、恋をしている時に心臓が狭くなるあの感覚はしないのだ。むしろ、それとは逆で、心を広げてくれるような、温かく包み込んでくれるような感覚になるのだ。落ち着く、リラックスできる。そんな感覚だ。一字違いの一耳惚れ。
そんな一耳惚れを、したことがありますか?