タバコは吸うし、ギャンブルは好き、すぐに暴言を吐くし、デートは遅刻常習犯。禿げる禿げると強風が吹くたびに頭を押さえる不恰好なあなたは、私の一目惚れした初恋の相手だった。

出会いは私がまだ10代だった頃。彼は32歳だった。一回り以上年上で、自分の理想とはかけ離れた見た目と性格だったのに、なぜか惹かれた。理由を聞かれても、今でも答えられない。そう、これが一目惚れなんだ。

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一目惚れした彼とは3年ほどの付き合いで別れた。価値観の不一致だった。でも、互いに嫌いになったわけではなく、この先一緒になる未来を描けなかったから別れた。
円満に別れたこともあって、元彼として、細々10年近くメッセージや通話でやりとりをしていた。他愛もない会話を楽しむことで、お互いどこか癒されていたと思う。少なくとも私は癒されていた。
私はそういう日々がなんとなくずっと続くものだと思っていた。そんな時に届いた1通のメッセージに私は一瞬言葉を失った。

「そうそう、君には伝えておくよ。今ね、遠い異国の地に住む女性と交際してます。この先どうなるのか、全く見えないけど、誰にもしてあげることができなかった今の私の最大限をぶつけてみようと思います。29歳だから、今の君と同じ年齢かな?会うことも簡単ではないけど、この想いを大切に育んでいこうと思います」
そうか、元彼に新しい彼女ができたんだ。私と別れてから10年近く、誰とも付き合ってなかったのに、とうとう新しい彼女ができたんだ!
よかった……はず。
なのに……。
なぜだか、涙が頬をつたう。私のことを「わか」ではなく、「君」と呼ぶことで、元彼と私の距離が、今までのものとは違うと悟った。「誰にもしてあげることができなかった今の私の最大限」ということは、私に向けられた想いは最大限ではなかったということなのだろう。

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あぁ、私と過ごした日々や、私と繋がっていたこの時間も、もう終わりなんだ。元彼と別れてからもずっと繋がってきて、それに心地よさを感じていた。
元彼だから言えることも、元彼だから頼れることもあった。そう、あってはならないものだったかもしれないのに、すがっていた。すがりたかった。
別れて、離れて気づく、本当に心から好きだったこと。
もう戻れない。戻りたいわけではないけれど、心の隅に引っかかるなんとも言えない感情。もどかしい?悲しい?切ない?これは何?そんな迷いの中なんとか言葉を絞り出す。
「ステキな人を見つけたんだね!いい出会いがあったみたいで何よりだよ。そのステキな方とうまくいくことを願ってるよ!前よりも、私と付き合っていた時よりも、ずっと魅力的な人になったし、ずっとステキな人になったと思うから、きっと幸せになれるよ!幸せになってね!」
精一杯の返事をした私は、真夜中にお酒を手にした。1人晩酌だった。
素直に喜べない自分と向き合いながら、今は大切にしてくれる夫がいるじゃないかと、言い聞かせた。

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冷静になって考えてみれば、元彼の方が辛かったはずだ。私は別の人と結婚したのだから。
なのに私は、元彼に新しい彼女ができただけで、心が乱れる。自分の心の弱さを感じつつ、一つ深呼吸をする。
私が結婚報告をした時、元彼はどんな気持ちだったのだろう。「わかの幸せを心から願っている」って言ってくれたこと、「わかの花嫁姿見たかったなぁ」って言ってくれたこと、あれは本心だったのだろうか。もしかして、元彼は私のように、頬をつたう涙を隠して、精一杯の優しい言葉をかけてくれたのではないだろうか。

本当に、ステキな人になったんだな。しみじみと元彼との日々や想いを振り返る。

幸せになるんだ。私も、私の一目惚れしたあなたも、幸せになるんだ。