映画が始まるまで、私は映画館のロビーでフライヤーを眺めていた。新作や他館の上映情報で溢れるラックの中から視線を感じ、目を留めた。可憐な女性が手を組んで、目を潤ませてこちらを見つめている。私は彼女に、一目惚れしてしまった。

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彼女の名前は芦川いづみさん。1950年代から1960年代にかけて、数々の日本映画に出演した名女優だ。結婚を機に俳優業を引退するまで、スクリーンを通して多くの人々を魅了した。いや、現在もなお見る人々に恋心を抱かせているのかもしれない。現に私もそうだ。私はフライヤーを迷わず手にとった。彼女の作品を観てみたいと思った。

数週間後、芦川いづみ特集を催していたフライヤーの映画館に訪れ、彼女の作品を観た。その作品は「真白き富士の嶺」。1963年に公開され、吉永小百合さんと姉妹役で共演している。若かりし頃の吉永さんを初めて観たが、可憐で天真爛漫で、とても綺麗だった。そしてそれ以上に、芦川さんに見惚れる自分がいた。物語から出てきたかのような美しい女性。彼女が登場する度に、その立ち振る舞いや台詞に目と耳が行ってしまう。上映後、早くも「芦川いづみロス」になった私は、館内のショップで彼女のポラロイドが販売されていることを知り、迷わず購入した。昭和時代に流行ったスターのポラロイドを、令和を生きている私が購入した。不思議な感覚だ。彼女の作品をまた観よう、そして、このポラロイドを大切にしようと心に誓った。

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もう一人、私が恋した映画女優がいる。高峰秀子さんだ。半世紀にわたって日本の映画界で活躍し、多くの作品に出演した。エッセイストとして本も多数出版している。

彼女との出会いは、たまたま観た「花つみ日記」。当時15歳だった高峰さんの最初の登場シーンで惚れてしまった。同級生と歌を歌いながら校庭を掃除している主人公。斜め下を向いて箒で掃いている時の顔があまりにも清純で美しかった。上映後はすぐに検索ブラウザに彼女の名前を入力して、情報をかき集めた。

後日、高峰さんが出演する「放浪記」を観た。名前は何度も聞いたことあったが、映画を観るのは初めてだった。「放浪記」は職を転々とする主人公が、苦境の中で日々を歩み続ける物語だ。主人公の高峰さんの演技に、また惹かれてしまった。清純なイメージが強かったが、泥臭くもしたたかに生きる女性を見事に演じていた。やけになって酒を飲むシーンやちゃらけた表情をつくったシーンが印象に残っている。そして、「放浪記」そのものも、私に響く内容だった。私は転職を経験して、金銭的にも心境的にも生活がカツカツで、嫌気がさしていた。そんな私に、ささやかだけど真っ直ぐな光を与えてくれた作品だった。そして、この作品に出会わせてくれたのも高峰さんだ。

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また別の日、銀座のMIKIMOTOで開催されていた高嶺秀子さんの特別展を見に行った。ジュエリーをはじめとした愛用品や映画作品が展示されていた中で、私の目を引いたのは高峰さんの「言葉」だった。映画、女優業、食、旅、家族…彼女の周りにある大切なものに対する愛情が感じられた。生きた時代が違うのに、ハッとさせられ、心があたたかくなる言葉に溢れていた。もっと彼女の言葉を読みたい。私は、彼女のエッセイを購入した。これから大切に読んでいこう。

芦川さんや高峰さんのような昭和の映画女優に惹かれて、過去の映画作品の上映に足を運ぶことが多くなった。まだ知見は浅いものの、黄金時代と呼ばれていた日本の映画作品の面白さや奥深さを感じるようになった。今月も名作を観に行く予定がある。もしかしたら、スクリーン越しにまた誰かに一目惚れしてしまうかもしれない。