ずっと女子高育ちで未来にむかって一心不乱だった私が、第一希望の大手就職先で社会人1年目をむかえるも日々行き詰っていた時、はじめて「彼氏が欲しい」と思うようになった。

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ある平日の夜、たまたま会社外でイベントの手伝いをしていたら、はじめて、その「彼」(候補)に遭遇した。帰り際に向こうから連絡先を交換したが、その時の私は自分に自信がなく、当たり障りなく「また会いましょう」とだけ返事をしていた。

それから半年後、街に秋が訪れ始めたころ、やはり彼を忘れられなく、自ら「久しぶり」と連絡をいれ突如東京テレポート駅で待ち合わせることにした。

改札を出ると、とてもあの時私に連絡先を交換しようと言った半年前の彼とは思えないような気落ちしたうつむき姿で、紺色のコートを着た彼が待っていた。

私は、初対面の時から彼を静かだが前向きで創発的な人だと感じていたので、とくに気にせず、何事もないかのように「久しぶり。元気?」と快活に挨拶した。

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それから、歩いて行くうちにお互いの兄弟やこれまでの学校生活などの共通点で話に輪が咲き、彼の仕事柄来たであろう新車販売のイベント会場に到着した。一緒に大勢いる新車販売ショーを一通り見た後、「何が食べたい?」というので、私は広々としたお台場のテラス席を指さし、イタリアンランチを食べた。

食べ終えると15時をまわっていたが、二人で別会場まで残りのショーを見に行き、彼が最新のトレンドについて彼なりの解説をしてくれた。私にとっては、車もマーケティングも異業種で遠い世界だったため、彼は「仕事に連れてきてごめん」と言ったが、正直とても満足していた。

何より、知的で探索的な彼の幅広い世界観が、一緒にいて私はすごく心地良かった。もう既に、半年前に偶然出会った初対面なのに憧れと安堵感を覚えた彼が、今まさに自分の隣にいてくれ会話が現在進行しているという事実が、なんだかとても嬉しかった。

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帰り際、二人でりんかい線に乗ろうとすると、ホームに吹き付ける風が私の髪をなびかせるほど強く、師走の前触れを感じさせた。「寒くない?」と聞かれ、長女で強がりな私は「全然寒くない」と笑顔で答えた。電車に乗り隣同士でつり革につかまっている時にはじめて気づいたが、今日は私も彼も似たような紺色の薄手のコートに中は藍色のクルーネックのシャツを着用していた。

電車の中で、横で話ながらたまに彼と目が合う時、窓越しにたまに二人の並列姿が映り出される時、半年前の初対面の時に抱いた、なんだか家族みたいで兄弟みたいな思慮深い「彼」に再会できてよかった…と言葉にできないような広大な安心感が、私の胸に広がっていった。

普段は都会のオフィスで自信もなく垢ぬけない1年目OLだった私の、「久しぶり。元気?」の行動力は、いまでも誇りに思いたい。