顔がタイプじゃないと恋愛対象に入らない、つまり面食いであることは悪いことなのだろうか。

これは私の中にずっと、密かに存在している疑問である。

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つい数年前まで、恋人ができたことがなかった。それどころか、好きな人すらできたことがなく、恋人が欲しいと思ったこともなかった。

過去に、恋人がいたことがないことに対して興味本位で色々聞いてきたり、アドバイスをしてきたりする人が多い環境にいた時期があったのだが、その時期に、どんな人が好きなのかという周りからの質問に対して、正直にイケメンが好きだと答えと、必ず理想が高いだとか、イケメンなんて滅多にいないだとか、そんな言葉が返って来ていた。分かっている。理想が高い。ジャニーズ系のイケメンで、自分より背が高くないと恋愛対象には入らないのだが、168cmある私より背が高いジャニーズ系のイケメンなど中々いない。

だけど私はこう思っていた。確かに理想が高いけれど、今現状彼氏が欲しいと思って積極的に動いているわけではないし、結婚願望もない。そして、それを周りにも公言している。だから別に理想が高いだの、そんな人はいないだの、わかりきっていることを何度も言わないでくれと。だって、理想を下げる必要性がないのだから。

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そして私はその自分の考えを貫き、理想を下げることも、無理に誰かを好きになろうと行動することもなかった。そういう自分なのだから、一生恋愛も結婚もすることはないのだろうと漠然と想像し、仕事をバリバリ頑張ってお金を稼ぐぞ!趣味を満喫するぞ!と意気込んですらいた。

そんな風に意気込んで転職を決めて数週間経った頃のことである。ここでは詳細は伏せるが、家の近くでジャニーズ系のイケメンと出会い、私はその人に一目惚れをした。二次元でも芸能人でもなく、こんな身近にイケメンがいたなんて!!と驚いた。

最初は彼に恋愛感情というものは抱かず、目の保養として時々視界に入ってくれたらいいなくらいに思っていたが、ある時、デートして欲しいという申し出と共に、彼の方から連絡先を聞いてくれた。嬉しかった。そして、それ以上にドキドキした。

それまで人を好きになったことがなかった理由として、確かに理想が高いという理由があるし、それまで生きてきた環境にあまり男性がいなかったという理由もある。そしてもうひとつ、とても大きな理由があった。それは自信のなさである。私なんかが人を好きになったってどうせ…と思っていたのだ。しかし、その暗くて卑屈な考えは、デートをして欲しいという彼の申し出により吹き飛ばされた。私だって、誰かを好きになっていい。そんな当たり前のことに彼は気付かせてくれたのだ。

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イケメンにはクズが多いという偏見を何度も耳にしてきたけれど、私はそんなことないと思っている。私には昔から、人の仕草やちょっとした発言、ふとした表情などで、その人がどのような人であるかをなんとなく察知できるという特技がある。彼に対して感じた、素敵な人!優しそうな人!穏やかそうな人!という直感も当たっていた。だって、あれから2年半以上経った今でも彼に会うたびにそう思うのだから。

ちなみに、見た目から好きになって、将来歳をとってイケメンじゃなくなったり、太ったりしたら好きではなくなるのかと聞かれることもあるのだが、おそらく何かしらの理由で見た目が変わってしまっても好きでいるだろう。もちろん、面食いの人間がみんなそうだとは限らないと思うが、見た目はあくまでもきっかけであって、ずっと一緒にいて相手を大切に思うための絶対条件ではない。

見た目が好きではないと中身を知ろうと思わないなんてもったいないとか、人として寂しいとか思う人もいるかもしれない。見た目が大事だなんて、幼い考えだという意見もあるだろう。そう思う人に対して反論するつもりもないし、寧ろ一理あるとも思う。ただ、人を好きになるのは理屈ではない。だから面食いである自分の性質をおかしいとは思わないし、面食いの性質があることで困ったこともないので、治そうという気も一切ない。そして、面食いな自分が好きだ。

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大好きな彼との恋愛のきっかけは見た目だったけれど、性格も、声も、醸し出す雰囲気も、今は全部好き。彼といるときの自分も好き。彼と出会い、付き合ってから日に日に幸福感が増している。

隣で寝ている彼を見て、いつも、なんて綺麗な顔なんだろうと思い、つい眺めてしまう。付き合って2年経った今でもずっと眺めていたくなる、その綺麗な寝顔を見ながら私は心の中で、いつもありがとうと呟いたり、これからもずーっと、彼が幸せであるように願ったりしている。幸せを願える相手が隣にいるということは、すごくありがたく、そして幸せだと思う。本当に、彼に感謝だ。