初めて結婚を真剣に考えるくらい、大好きな人がいた。
その人とはお別れして未練もないのだけど、時々思い出す楽しかった思い出が今でも私の心を彩る。

恋愛経験が乏しい私だったから、旅館に行ったのも、手料理を振舞ったのも、一人暮らしの家に呼んだのも、一緒にディズニーランドへ行ったのも、全部その人が初めてだった。
居酒屋を開拓したり一緒に映画を見たりしたけど、その中でも楽しかった潮干狩りの思い出を時々思い出す。

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私は休日出かけることが好きな方で、美味しそうな居酒屋や街のイベントを見つけると「一緒に行こうよ」といつも彼を誘っていた。
彼の方から○○へ行きたい、と言われることはあまりなくて、いつも「もぴちゃんが行きたいところに俺も行ってみたい」と言ってくれていた印象がある。そんな彼だったけど、過去に2回ほど彼が「いつか行けたらいいな」と言っていたものがあった。それはディズニーホテルに宿泊することと、潮干狩りに行くことだった。

ディズニーホテルは、彼がずっと好きだと話していた作品がテーマになった客室が期間限定で用意されるということで、私はその話を彼から聞いた時から「いつも私の願いを叶えてくれているから、彼にもお返しがしたい!」と思い、サプライズをするため予約開始前からスマホとPCと両方の画面にかじりついていたけど、全国に大勢ファンがいて、争奪戦には負けてしまった。しかし、諦めきれずその後も毎日ページを開いて眺めていると偶然キャンセルが出て、ラッキーなことに宿泊することが出来た。
部屋を作品のカギで開けた時に「おぉ!」と彼が驚いていた様子だったり、普段表情があまり表に出ない彼がほくほくと嬉しそうに部屋の写真を撮ったり、グッズに興奮して声が少し大きくなっていたり。彼が本当に喜んでいた様子は今でも覚えている。彼と一緒にこの場所へ来ることが出来て、本当に良かったなぁと思えた時間だった。

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これからはそのもう一つの思い出である潮干狩りについて書こうと思う。
彼に「潮干狩りに行こうよ」と誘われて、当時の私はめちゃくちゃ嬉しかった。
いつも私に合わせてくれる彼が「行きたい」と言っている場所だし、私も潮干狩りは小学生ぶりだったから、潮干狩りの道具を買い出しに行くところからすでに上機嫌で、砂抜き用の塩や熊手を2人で一緒に買いに行った。
潮干狩り当日は、その場所まで彼の運転で向かった。私は彼とのドライブも大好きだった。真剣な表情で運転する彼の横顔を助手席から見るのが何より好きだったし、彼が車内でかけている音楽に合わせて一緒に歌ったり、合いの手を入れてはしゃいだりするのも楽しかった。私が合いの手を入れるといつも彼は笑ってくれていた気がする。

途中で道に迷いながらも、無事に到着することが出来た。
日差しは強いし、利用客も多いから、砂をどんだけ掻いても貝は全然出てこない。
だけど、「全然出てこないね~」とか「貝じゃなくて、ヤドカリなら結構いるんだけどね~」とか2人でけらけらと笑いながらざりざりと、砂をいじって探す時間がすでに私には楽しくて、貝は採れなくてもそれだけで十分楽しかった。
お昼には、自宅で準備したおにぎりとおかずをお弁当箱に詰めてそれを2人でレジャーシートの上で食べた。鮭と梅の混ぜ込みおにぎりの適度な塩気とあらかじめ凍らせてきた飲み水の冷たさが疲れた体に染み渡る。砂まみれの足元を2人で笑ったり、貝が採れないかわりに連れてきたヤドカリの様子を伺ったり、遠足みたいで楽しかった。そこで食べたお弁当は普段の何倍も美味しく感じた。

午後は一生懸命砂を掘って貝を探している彼のそばで体力がなくなった私は砂に絵を描いたり彼の名前を書いたり自由に過ごしながらマイペースに潮干狩りをしていた。そんな中、彼が貝を見つけて「あったよ!」と私を呼ぶ。貝一つ見つけただけだけど、2人でめちゃくちゃはしゃいで、ここならありそうだねと、私も一生懸命掘ったら貝を2個ほど見つけることができた。最終的なその日の成果は6個くらいだったと思うけど、その6個の貝と何匹かのヤドカリを大切に膝に抱えて自宅へと帰った。

帰り際に寄り道をしてはんぶんこしたアイスの実も、帰ってから砂抜きをして一緒に調理をしたけど、いつもはうっかりミスをしない彼が貝のダシを捨ててしまったから味の薄い料理を食べたのも全部ひっくるめて、たくさん疲れたけど、楽しい1日だった。

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彼とはそれから数ヶ月後にお別れをすることになった。
私の振る舞いで不安にさせてしまったことで彼のことをたくさん傷つけてしまったし、私もたくさん悲しい思いをした。スマホを勝手に見られていたことも知っていたけど、私が彼のことしか見ていないことが伝わるといいなと思い、何も言わなかった。でも、私は束縛を愛されていると勘違いしていたし、私の配慮のない行動が彼のことを傷つけてしまっていた、その時を思い出すと今でも少し胸が苦しい。
きっとその時の彼には新しい人がいたはずだから、今は私ではない誰かと幸せに笑っていてほしいなと心から願う。

仕事で理不尽な思いをしたり、家族の問題で泣いてしまったりした時はいつも傍にいてくれた。昇進した時にはケーキでお祝いしてくれ、自分のことのように喜んでくれた。誕生日は手作りの料理を振舞ってくれた。今まで家庭で手料理を食べた記憶がほぼ皆無だった私は、彼の作る料理やお菓子がどれも泣けてしまうくらいに嬉しかった。

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別れた直後は好きだったけど別れるしかなかった私は毎日泣いてばかりだったけど、時間が経った今、彼と過ごせた時間に当時の私はたくさん救われていたし、そんな素敵な人と出会えて幸せだったな、と心から思う。
彼との別れを経験して、私も少しは成長できた気がする。もう泣いてばかりの毎日じゃないし、強くなれた。どんな人との出会いも、きっと自分にとってどれも必要なものだと思うからこれからの人生で出会う人、既に出会っている周囲の人達と過ごす時間を大切にしながら、あの時の彼が少しだけ、変わることから逃げたことを後悔するくらい、素敵な人間に成長できるように頑張りたいと思う。