私の記憶にある「ひとめぼれ」は、間違いなく小学校5年生の時のあの人だ。目がくりっとしていて、栗色のさらさらした髪をしていて、なによりかっこよくて、一つ上の6年生の“先輩”。その人の周りはなんというか、キラキラしたオーラに包まれていた。

◎          ◎

でも、私はそのひとめぼれを「恋」とは思っていなかった。

小学校の運動会のこと。5年生と6年生で「応援団」なるものを作り、競技の合間に赤組・もしくは白組の前に立ってでっかい声を張る。目立ちたがり屋でクラスの「班長」をやりたがるくらいの私は、迷わずその応援団に立候補した。初めての応援団の練習日。放課後に残って体育館に行く。そこでその先輩と出会った。

「今回白組の応援団長をします、N(先輩の頭文字)です。宜しくお願いします」
深々と頭を下げ、その人が顔を上げた瞬間、私は思った。

「かっこいい…」
目がキラキラしていて、ぱっちり二重で、なんか、いわゆるイケメンに見えた。

思えば、男性に初めて「かっこいい」と感じた出来事で、でも当時はそんなこと一ミリもわかっていなかった。でも、ただ見惚れていたあの感覚は覚えている。

練習は結構過酷なものだった。クーラーのない体育館。まだ夏の香りがプンプンと残る9月、汗はかくし、「もっとおっきい声出せ~!」なんて言う学校一厳しい先生の視線も刺さる。でも一番大変なのはあの応援団長だ。十何人いる応援団をまとめ、先頭に、センターに立つ。一番でっかい掛け声を出し、士気を高めるその役割は、そばで見ていて重そうだった。

でもとっても一生懸命で、その姿がまぶしくて、だから頑張ろうって思えた。

◎          ◎

ある日、団長が声を枯らして練習にやってきた。先生は、「塩水でうがいしたらいいよ」なんて、励ましなんだかわかんないこといっていたが、私は気が気じゃなかった。「N先輩、大丈夫かな…」小声でつぶやく。

そんなこんなで迎えた運動会本番。雲一つない快晴。応援団として立つ。先頭のN先輩の姿が、一層かっこよく映った。先輩の後ろ姿がとっても頼もしくて、それを後押しするような気持ちで声を出した。

5年生の学年種目は騎馬戦、土台をしている私の耳に、応援団の先輩達の声が入ってくる。やる気しか出なかった。6年生の学年種目の組体操では、さすがに応援団の応援はできず、ただ祈るように完成を見ていた。

が、白組のピラミッドでアクシデントが発生!なにごとかと思ったが、子どもの私には何もできなかった。運動会の閉会式、団長のN先輩の姿が見えず、目線で探していた。えっなんでいないの?と思いながら、校長先生の話なんか耳に入らなかった。運動会が終わり、そのままどうすることもできずにいたとき、ある声が聞こえた。

「最後白組の子、骨折しちゃったんだって??」「応援団長の子じゃない?」
「かわいそう、最後やったのに」

◎          ◎

どうかそうでないようにと祈っていた。しかし、運動会が終わった最初の全校集会で6年生の列からギプスをしたN先輩を見かけ、「まじか…」と思った。「早く治りますように」とも祈った。

運動会が終わると、自動的に応援団も解散となり、私とその先輩は会うことがなかった。でも、全校集会で6年生の列からN先輩を探す癖はなぜか抜けなかった。寒くなった季節にギプスが取れたときは、心底ほっとしていた。

そして、卒業式。在校生代表で5年生が出席する。もうN先輩に会えないし見ることもできない。そう、無意識で思って、その先輩の卒業証書授与の返事だけはシッカリと耳に入れていた。そこから私も中学受験をするなどして、まったく会うことはなかった。

◎          ◎

と、こう書いていると、何にもしていないだけの恋物語じゃないかと26歳の自分は思う。でも、11歳の私は、「恋」なんて知らなくて、恋していると気づいてすらいなくて、ただの、でも、とっても大切な、「あこがれ」という感情を生み出していたのかもしれない。
そう思うと、その人に対して何もしていなくてもよくって。

ただ背中を追って、その背中を頼りにしていた、
それだけで尊い時間だったのだ。

そして、これを書いているときに気づいてしまった。
この小5での出会いで、私自身の「タイプ」ってやつが形成されていた可能性に。

そう思うと、なんだか照れくさい。

だって私の今大好きな人も、目がくりっとしていて、いつだって一生懸命に全力を尽くす人だから。