クリスマス間際の恒例行事。それは、サンタさんへ手紙を書くことだった。
まだ「サンタ」というカタカナを覚え立てのわたしは、サンタさんへのお手紙に
こんなことを書いていた。

母の嘘を確かめるために、サンタさんに正体を確かめる手紙を出した

「サンタさんへ
このてずくりのネックレスをあげるのでプレゼントはかわいいねこちゃんと
ぴあのをください。ちゃんといいこするのでおねがいします。
それと、サンタさんはほんとうにいるんですか？」

可愛い年齢で、プレゼントを2つも要求するなんてガメツイ少女なんだ……と、20歳のわたしはその手紙を見つけたときに笑ってしまった。
確か、この頃は友達とこんな会話をした。

「柚希はまだサンタさん信じてるの？サンタさんなんていないよ！だってうち来ないもん！」
「違うよ！！サンタさんいるよ！だっていつも手紙返ってくるし！！」
「あはは！そんなんだからいつまでたっても泣き虫で弱虫なんだよ！」
「ちがうもん！！！」

わたしの友達は同い年と思えないほどに達観して、冷めていて、まだピュアなかわいいわたしを馬鹿にしてきたことがあった。
そして、ピュアなわたしは「もしかして、いない……じゃあ誰がプレゼント持ってくるの？」と、ママに嘘をつかれていたら悲しいなあって、どこかで思っていた。
だから、どうにか事実を確かめるために、ママではなくサンタさんに正体を聞くという選択をしたのかもしれない。

そして、サンタからの返事は、今でも手元に取ってある。

母を亡くした後に見つけた手紙に書かれていたのは「優しい嘘」で

「ゆずきちゃんへ
お手紙ありがとう。プレゼントのことですが、サンタさんは全国の子供たちみんなに
プレゼントをくばらなければいけません。
なので、プレゼントは1つにしてくださいね。
本当にほしいものが1つきまったら、またお手紙ください。まっています。
それから、サンタさんが本当にいると信じている人のところにしか
サンタさんはいけないのです。
だから、ゆづきちゃん
『サンタさんはぜったいにいる』と信じつづけてください。
この手紙はゆずきちゃんとサンタさんだけのひみつだよ。
サンタより」

この手紙を、わたしは母を亡くした後に押し入れから見つけた。
なんて優しい嘘なんだろうと、涙が止まらなかった。

どんなことも真に受けてしまうのは、母の願いのおかげと気付けた夜

1年前、わたしは信じていた元彼に傷つけられて、精神的にかなりのダメージを負ったことがある。
そのとき、サンタを信じていたことを馬鹿にした幼なじみが、ラーメンのコーンをめんどくさそうにすくい上げながら言った。
「ねえ、柚希ってさ。なんで騙されてるかもって疑わずに100％信じられるの？
信じ切ったら裏切られたとき辛いやん。現に大ダメージ負ってるわけだし。もうちょっと疑いなよ」

確かにその通りだなあと思って、だけど理解はできても納得ができなかったから、わたしは幼なじみの目を真っ直ぐ見て言い返した。
「え、だってさ、100％信じて、相手が損することってなくない？」
幼なじみは、目を丸くして一瞬驚いた。そして、愛おしそうな悲しそうな声で笑った。
「もー、ほんとに柚希はバカだよ！あーーー！こんないい子を傷つけて地獄に落ちればいいな元彼！！！」
その幼なじみに言われる「バカ」は、理由もわからず涙がこぼれてしまうほど優しくて愛が詰まっていた。

今でも、どんなことも真に受けて信じてしまうのは、きっと母が「素直な子に育って欲しい」と育ててくれたからだと思うと胸が熱くなった。