可愛いものが好きだ。幼いころからその衝動は変わらない。衝動、という言葉は我ながらピッタリだと思う。美しい絵に惹かれる衝動と何ら変わらない。
可愛いものを見ているだけで癒されるし、恋にも似たときめきがある。

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2022年、生まれてはじめてメイド喫茶へ足を運んだ。最初はただの好奇心だった。
「一生に一回くらい行ってみたいな」
……でもそもそも、女性の人は利用するのだろうか?どんな場所なのだろうか?そもそも、システムはどうなっているのだろうか?
そう思ったわたしは緊張のあまり、20分ほどメイド喫茶の周りを歩き回った。
……最終的に、恐る恐るメイド喫茶の扉を開けた。
 「お嬢様のご帰宅で〜す♪」
ご、語尾におんぷが付いているだと……?!?!

案内されるがまま、パステルカラーのカウンターに座って辺りを見ると、わたしともう一人、女性客がいた。
お水と一緒に、メニュー表が運ばれ、メイド喫茶の女の子が言った。
「このお店ははじめてですか?」
はじめてです、とわたしは返答する。
「ではルールを説明しますね♪」

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ルールは簡単に言うとこんな感じだった。
女の子に触るのはNG。連絡先を聞くのNG。つきまとい行為NG。
そしてメニュー表にはチャージ、ブロマイド、チェキ、そして、ご褒美ドリンクなるものがあった。
ご褒美ドリンクとは、大体500〜1,000円で、女の子にご褒美としてドリンクをあげられるというシステムだ。ソフトドリンクとアルコールでそれぞれ値段が違ったりした。
わたしはとりあえず、一番お得な「はじめてのご帰宅セット」を注文することにした。
はじめてのご帰宅セットには、チャージ、ご褒美ドリンク、チェキの3点がついている。

たっぷりとフリルがあしらわれた制服を着てお給仕してくれる女の子を前に、人見知りが発動したらしい。わたしは緊張で話せなかった。
ただ一つ、チェキに写っている自分は満面の笑顔だった。
しかしほとんど自分が話すことができなかったのが、残念だった。
やっぱりはじめてはこんなものか……。そう思った。
「お嬢様のご出発で〜す♪」
可愛くて、きらきらの可愛い世界でお給仕する女の子。楽しそうに話をするお客さん達。
「もう一度、リベンジしてみよう」
今思うとこれが、メイド喫茶沼への第一歩だった。

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2回目も同じメイド喫茶へ足を運んだ。
そこしか場所が分からなかったのだ。
今回も、緊張のあまり十分ほどメイド喫茶の周りを散策し、扉を開けた。
「お嬢様のご帰宅で〜す♪」
2回目の場所だからか、お給仕してくれる女の子たちは違うが、色々と話す事ができた。好きな本、おすすめのアニメの話。
とても楽しい時間だった。気がつけばわたしはすっかり癒されていた。
メイド喫茶の魔法にかけられていたのだった。

それからわたしはメイド喫茶沼にハマった。
なけなしのお給料をメイド喫茶に注ぎ込んだ。
推しの女の子ができた時はもう大変だった。
具体的な値段は秘密だが、自分に買うものの約3倍の値段のアクセサリーなどを推しにプレゼントした(貢いだ)
推しの一番のお財布になりたいとすら思った。

そんなこんなでメイド喫茶ライフをエンジョイしていたわたしだったが……2022年の末に、一旦冷静になって考えた。
今年メイド喫茶にいくら使ったか。1回メイド喫茶に行くお金があれば何ができるのか。
デパートで売っているコスメを買える、友達と1回遊べる、本を3冊買える。本を3冊買える!!!(大切なことなので2回言いました)

うーん、もったいないなぁ……今年はメイド喫茶へ行くのを控えます、と、周りの友人にはそう宣言している。口だけかも知れないが。