デートってなんだろう。大人になると「一緒にいること」と「デート」の境が曖昧で、特に同棲や結婚をしてからは、同じ家から出発すると生活の延長線上みたいになるけれど、ハイティーンの頃、どんなに小さいことでもデートはデートだ、という感じがしていた。

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人生でいちばんデートした相手は誰だろう。もうお別れしてから10年近く経つけれど、高校から大学まで4年くらい付き合った彼氏がいまだにそのポジションなんじゃないかと気づく。彼のことを思い出そうとしなくても思い出せるデートがひとつある。カメラフォルダに写真が残っていて、それをちらほら目にしているゆえに覚えているような生半可な記憶じゃなくて、まだギリギリガラケーだったからその時の写真もどこかにいってしまった。それでもはっきり思い出す、本物の記憶だ。

高校生の頃のわたしは、東京メトロの一日乗車券を買って、あまりプランを立てずに東京をぶらぶら散策することにはまっていた。駅名をしりとりで繋げるように降りてみたり、目をつぶったまま路線図を指差したところに行ってみたり。そんな今でも普通に楽しめそうなことが好きな高校生だったから、実際のところ周りの友人とは趣味が合わないなと感じていて(嫌な感じ!)、クラスで過ごさなければいけない時間はひたすら惰性で、そういうことに同じテンションでついてきてくれる彼氏だけが本当の友達のように感じていた。

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その日は制服のシャツにカーディガンを羽織るくらいの季節で、日差しがきらきらと美しくて、数日前から「晴れたら決行しよう」と相談していた計画を実行するにはうってつけだった。わたしたちの高校は私立で土曜日も午前だけ授業があったのだけど、それをサボって朝から東京をぶらぶらしよう、と話していたのだ。平日の昼間に制服でいると目立つけど、土曜なら世間一般的には誰も見咎めないし、かつ「学校をサボっている!」という感じが自分たちとしては味わえる、と思っての曜日設定だった気がする。

わたしの最寄り駅に集合して、お気に入りの公園のベンチに座って「今日は欠席します」という電話を学校にかけた。電話を取るのは事務員さんで、わたしたちの声なんて知らないので保護者のふりをしても全然問題なかった。頭上では色づき始めた紅葉が美しく、すでに楽しい気分だったのを覚えている。

そこからどの駅で降りて何をしたのかのディティールは正直笑っちゃうくらい覚えていないのだが、わたしが大好きだった皇居外苑に行った記憶だけは唯一はっきりと残っている。学校をサボって皇居でデートする高校生なんてわたしたちだけじゃないかと、それこそ「最強」を感じたものだった。

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とはいえこんなに強烈な記憶なのに、本当に思い出せることはたったこれだけだなんて!彼とは東京中を探検した記憶がたくさんあって、雑多に思い出すことはもちろんできるのだけど、あれは何歳のいつの季節のことだったのだろう、と事細かに思い出すことはほとんどできなくなっているのだなあ、と気づいた。

つい先日、久しぶりに彼に会う機会があったので、「高2くらいの時、土曜日に学校サボって東京をぶらぶらした時のこと覚えてる?」と聞いてみた。「ぶらぶらしたことは覚えてるんだけど、どこに行ったか全然思い出せないんだよね」と。そしたら彼も、「最初に集合して公園で電話をかけたことをいちばん覚えてて、どこに行ったかびっくりするくらい思い出せない」と言っていた。覚えているのに、思い出せない、というところまで一緒で笑ってしまった。それも含めて、改めて、「デートの思い出」ができたような気分だ。