朝4時、海外に行くようなキャリーケースを引いて一人街を歩く。
何度も乗車した5時7分始発の電車に乗って乗り換えること3回。
改札の先で一人だけ色づく彼に小走りで近づく。

「久しぶり、疲れたでしょ」
「うん」
そう言って笑う彼に抱きつきたいのを堪え、コインパーキングへと向かう。

「会いたかった」
乗り込んだ瞬間、溜め込んだ気持ちと共に彼へと腕を伸ばす。
「俺も」
その言葉だけで約5時間の移動の疲れが吹き飛ぶ。

3年半の遠距離恋愛が唯一の恋愛経験である私にとってデートは旅行のようなもので。
別れて5年、コロナもあり人と新しく関係を始めることができていない私にとって、いまだにその感覚は抜けないでいる。
そんな私の今1番恋焦がれるデート、それは日常を共に過ごすということ。

◎          ◎

「明日このカフェ行ってみたい。チーズケーキ美味しいらしい」
「いいじゃん、そうしよ」
「昼ごはん何食べたいとかある?」
「そのカフェの近くに行きたかったハンバーグ屋ないっけ?」
「90分で食べ放題のとこ?」
「そう、チーズケーキの前にしんどい?」
「デザートだけは別腹って東京ミュウミュウが言ってた」
「愚問だった」

ベッドの中で一人LINEを見ながらけらけらと笑う。
「でも一応ハンバーグは開店ダッシュして、少し散歩してカフェ行こう」
「賛成、じゃあ10時半に駅でいい?」
「おっけ〜」
「は〜い。あ、明日泊まるよね?」
「あ、うん。泊まってもいい?」
「もちろん、アマプラに観たがってたドラマ配信されてたから晩酌しながら見よう」
「最高」
「おやすみ」
前日の夜にベッドの中で明日の予定をきめ眠りにつく。

◎          ◎

朝8時、半分微睡の中ゆっくりとベッドから起き上がる。
YouTubeでケイティ・ペリーのRoarを流しながら休日用のメイク用品を取り出す。
お気に入りのイヤリングとマルジェラのレイジーサンデーモーニングを付ければデート用の私が出来上がる。

「もうすぐ着く」
「おっけ、俺ももう着く」
「は〜い」
電車の中で連絡し、改札で落ち合う。

「その服この間買ったやつ?」
「そうそう、今日暑いからノースリーブいいかなと思って」
「いいじゃん」
「ハンバーグの匂いついても家で洗えるから大丈夫、しかもゴム製」
「さすが、睡蓮のそういうところ好きだわ」
「でしょ?ウォッシャブルとゴムは正義だから」
少しずつ日差しの強くなってきた中、何気ない会話をしながら二人でお店へと向かう。

「ああ〜お腹いっぱい」
「よう食べてたな」
「だって美味しかったんだもん」
けらけらと笑う彼を弱々しく小突く。
「チーズケーキが入るようになるまで少し散歩するか」
「そうしよ、さすがに今は別腹も埋まってるわ」
「夏服見に行きたいんだけど、一緒来てくれる?」
「いいよ、行こ〜」
そう言って寄り道をしながらお腹が空くまで二人で散歩する。

◎          ◎

「うわ〜、やっぱりおやつの時間だし並んでるね」
「だな〜、俺は待てるけど」
「20分くらいだろうって、待ってもいい?」
「もちろん、今日の夜ご飯何食べるか考えてたらあっという間だよ」
「うちら食べ物ばっかだ」
「最高じゃない?」
「最高」
お目当てのチーズケーキにも無事辿り着き、帰りにお酒とおつまみを買い込み二人で家に帰る。

「やばい、泣ける。なんでこんな切ないの」
「イ・ドンウクとサニーは来世では絶対に幸せになってほしい」
「ほんとそれ、ちなみに二人が幸せになるドラマもアマプラで見られるよ」
「まじ?見るしかないじゃん」
「また来週見よ」
「それな、もう寝るか」
「そうだね」
セミダブルに二人で横になりうつらうつらと意識が遠のく。
「明日は何する?」
「う〜ん、どっか行ってもいいね」
「とりあえず8時にアラームかけとくね」
「ありがとう〜。大好き」
「こちらこそ大好き。おやすみ」
「おやすみ〜」
人肌の温もりを感じながら眠りにつく。

何ヶ月も前から計画を立てるわけでもなく。
荷物はカバン一つで身軽に。
明日も何げない日常と共にあなたと過ごしたい。
それが私の、今1番恋焦がれるデートだ。