歳を重ねるごとにデートの回数も増え、歳を重ねるごとに贅沢も知ってきたけど、やっぱり忘れられないデートはひとつだ。

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社会人になって付き合っていた彼と、電車を乗り継いで名古屋に行った。

どうしても行きたい場所があり、そこからまた電車を乗り継ぎ愛知の端へ向かう。
用事を済ませ、せっかくここまできたんだからと、近くのビーチへ行くことにした。
最初は写真を撮ったり、砂浜で走ったりと、いかにもカップルらしいことをしてたのだけど、ひとしきり遊びきったところで休憩。

コンクリートの上に座りボーッと海を眺める。今日はここが楽しかったとか、この後どこに行きたいとか、向かいに飛行機が飛んでいてかっこいいねとか、そんな話をしていたのだけど、次第に会話も途切れお互い無言で海を眺める。

そこからひたすら無言の時間が続く。
幸せだった。

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上手く言えないのだけど、心が優しく満たされていく感覚。
海の音、ちょうどいい具合に吹く風、周りの人の笑い声、夕暮れ時で少し肌寒いぐらいの気温。

感じる物が全て心地よくて、沈んでいく夕陽をボーッと眺めていると、日頃の悩みやイライラが全て消えていくような感覚。

普段からそうやってボーッとするのは好きなのだけど、少しだけ彼と触れ合う肩に温もりを感じるのは、いつもと違って特別だった。気を遣って「帰る?」と、聞こうと思ったけれど、私の心が帰りたくないと言っていて、彼から言われるまで何も言わずにいようと決めた。
そこからひたすら無言で水平線を眺め続け、太陽が沈むとともにお互い何も言わず立ち上がった。

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時計を見ると30分以上経っていて、予想以上に経っていた時間に2人でワーワー騒ぎながら帰った記憶がある。

彼が本当は早く帰りたかったのか、それとも彼自身もそこにいたかったのかは分からないけれど、あの時過ごした時間は私にとって何より心満たされる時間だった。
"海を眺めただけ"かもしれないけれど、それだけで幸せを感じられる当時の私達は本当に感覚が似ていたのだと思う。

それから違う人と海辺でデートをしても、5分ほどで帰ろうと言われてしまったり、逆に変なムードを作られ、私が切り上げてしまったり。
特別じゃないようで意外と特別な時間を過ごしたのだと後々になって思う。
"無"の時間を過ごしたあのデートを美しい思い出として一生心に留めておきたい。