それは、突然やってきた。
「なんで結婚しようと思ったの?」と聞かれたら、世間一般的にはいわゆる"デキ婚"である。自分だけは絶対、しないと思っていた。そもそも縁がない言葉だと思っていた。
固い職業に就いているし、相手が交際や避妊に対して不誠実な人間なわけでもない。

ただ、思い当たる節がないわけでもなかった。1ヶ月半前、避妊に失敗した記憶があるからである。

大晦日「どうしよう外れていた」 病院へ行く勇気はなく様子を見ていると

"その日"は、大晦日だった。
お互い仕事が忙しく、家もそれなりに離れて暮らしているため、やっと会えたのが年末。
それさえ、実家の帰省前でようやく1泊2日で過ごす時間を確保できた状況だった。

「どうしよう、外れてた」の声に驚き、咄嗟に緊急避妊薬をと頭がよぎったが、時刻はすでに夕方。しかも大晦日である。

当然やっているのは救急病院だけだし、こんな日のこんな時間に受診する患者さんはよほど重病に違いないだろう。
そこに避妊に失敗しただけの私が行くということは、数少ない医療の手を煩わせることになる。
また、大変に待つことが予想されるため、予定の帰省には当然間に合わない。
年末の家族が揃う場において「避妊に失敗して病院に行ったので遅れました」などという勇気もない。

そもそも、排卵日に全くの避妊なしで性行為をしたとして妊娠するのは約20%程度だとも聞く。

そんな理由から、結局病院には行かなかった。行かずに、"様子を見て"しまった。

体の異変に気がついたのは、それからおよそ半月ほど経ったあたりである。
唇に痛みが走り、のちに発熱もした。
仕事が多忙すぎてなかなか受診できず、やっとの思いで皮膚科を訪れたらヘルペス口唇だと診断された。

「妊娠している可能性はありますか?」と聞かれ、数秒間固まったあとに「実は…しているかもしれません」と答えた。

「それは心配ですよね、では妊娠してても大丈夫なお薬にしておきますね。ただ、首のリンパも腫れていて、熱も38℃以上あります。万が一とは思いますが、今後激しい頭痛や吐き気に移行したらすぐに大きな病院で診てもらってください」と言われた。

今でもこの女医さんには心から感謝している。

2日後、とてつもない吐き気と頭痛に襲われ、救急車で搬送されることになる。

検査ののち、2週間の入院だと告げられた。
ここから激動の日々がやってきた。


「妊娠してるようです」 これだけでは終わらなかった

翌朝、検査のためにCTを撮るが妊娠の可能性はないかと聞かれた。あるかもしれないんです、と答えたら安心のために検査しましょうかと言ってくれた。

「あの、非常に申し上げにくいんですが、妊娠してるようです」

そして、目の前が真っ白になった。
人生でここまで頭が真っ白になったのは初めてだった。
これからどうすれば、誰から伝えれば、仕事はどうなるのか…。ぐるぐる落ち着かない頭の中、落ち着いてる暇はなかった。

入院した病院には産婦人科がない。妊娠しているのであれば、産婦人科のある病院に転院する必要がある。迷う暇など残されておらず、彼氏に告げ、両親に告げた。

2日後、病室内で婚約をし、婚約した1時間後には両親に挨拶することとなった。
まさか自分がデキ婚するなんて夢にも思わなかったし、彼氏もこんなにいきなり両親に結婚と妊娠の報告をするなんて思ってもみなかっただろうし、両親はさらに困惑していたに違いない。救急搬送され、入院と安静を余儀なくされた娘が妊娠しているというのだから。

しかしこれだけでは終わらない。数日後、更なる驚きが私たちを待っていた。
「あ、2人いますね」。転院先の産婦人科医がそう発したとき、診察台の上にもかかわらず大声で叫んだ。

双子だった。年末に避妊に失敗した1ヶ月後、わたしは双子の妊婦になった。
自分でも、ドラマみたいだなぁと思った。しかし、紛れもない事実であった。


もしも、コンビニに緊急避妊薬があれば 若い女性だったらなら 

本来なら結婚も妊娠もおめでたいことである。しかし、デキ婚はそうではない。
順番を間違えてると言われ、むしろ非難の対象となる。


なぜ、きちんと避妊しなかった。なぜ、緊急避妊薬をもらわなかった。
デキ婚は責任感がない。デキ婚は離婚率が高い。デキ婚するなんて計画性がない。デキ婚は、みっともない。

世間からデキ婚した女というレッテルを貼られたようで、しばらくの間ずっと罪悪感に苛まれた。
大晦日の夜でも、緊急避妊薬をもらいに行くべきだったのか。
もし、もう一度あの日に帰れたら、緊急避妊薬をもらうために救急病院に向かっただろうかーー。

幸い社会人として数年働いていたし、肩身狭い思いをしながらも、その後の生活もことなきを得た。双子は無事に育ち、今では4歳になった。結婚生活も、なんとか続いている。

しかし、これがもっと若い女性だったらどうだろう。例えばこれが、高校生だったら。
育てられるはずがないと言われ、中絶するのだろうか。それとも周囲の協力を得て、出産するのだろうか。

緊急避妊薬がドラッグストアですぐに手に入れられるようになれば、こんなことにはならなかったかもしれない。

緊急避妊薬が安易な性行為を生み出すという政治家もいる。しかし、守られるべきは望まない妊娠の回避であると私は思う。一度妊娠したら、心身を削って中絶するか、成人するまで育てるかしかないのだから。

この国は男女平等とはいえない。結婚や妊娠が祝福されるためには

女性の人生は、結婚や出産を機に激変する。もちろん男性にも変化はあるだろうが、結婚で苗字を変えるうちの大半は女性である。妊娠するのも、出産するのも、母乳が出るのも女性である。
男女共同参画社会基本法が制定されて20年以上経った今でも、この国は男女平等とはいえない。

残念ながら家事を担うのも女性の方が多い。これから妊娠する可能性がある若い女性というだけで、雇用が見送られるケースもあると聞く。
誰もがライフプラン通りに人生を全うできるわけではない。しかし、選ぶ権利は持っておきたい。

結婚するか、しないか。苗字を変えるか、変えないか。子どもを産むか、産まないか。
日本の社会が、もっと誇らしいものになるために。結婚が、祝福されるものであるために。
これから結婚、妊娠する全ての人が、望むべきタイミングで、周囲から祝福されることを切に願う。