生まれた時から犬と共に生活していた私は、当然に犬好きの性格に育った。基本的に内向的だが、愛犬については幼い頃から周りの人にしょっちゅう自慢していた。大学3年生のゼミナールで出会った彼も、その対象の一人であった。彼は私の自慢話を、否定も過度な共感もせず自然体で聞いてくれた。ゼミナールの課題や合宿、そして就職活動を共に乗り越え、気づけば私たちは気軽に2人で出かけられる関係性になっていた。私はその先に進みたい気持ちを秘めていたけれど、それよりも心地よく一緒に居られる人と出会えたことへの嬉しさの方が大きかった。そして大学4年生のある日、ごく自然な流れで彼は私の相棒に会いに来ることとなった。

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デートに向かう最中、多くの人はドキドキしているものだろう。沈黙を避けるために「何を話そう」「どう振る舞おう」なんてことを考えながら向かうものだ。しかしあの日の私はワクワクでいっぱいだった。大好きな2人が一体どんな化学反応を起こすのだろうか、と。待ち合わせ場所である小田急江ノ島線のとある駅に、彼は既に到着していた。私に気づくと、すぐさま視線を相棒であるビーグル犬に注ぎ、柔らかな表情になった。そしてかがんで彼女に目線を合わせ、じっと見つめて「リンちゃん」と話しかけた。彼女は尻尾を振り回すでも沈み込ませるでもなく、「あなた誰?まぁいいや、早く行こうよ!」という顔つきをし、私たちを先導した。大好きなドッグカフェまでの地図が、彼女の頭の中にはしっかり描けていたのだ。

カフェに着くと、テラス席に3人で腰掛け、湘南の海風に当たりながら、それぞれ食べたいものを頼んだ。心地よい秋晴れの日だった。彼女は「かぼちゃのスコーン」が到着するや否や、飲むようにものすごい勢いで食べた。彼はその様子を微笑みながらスマートフォンに収めていた。私は、いつものように彼女が「もっと食べる!」とワンワン騒がないか気が気でなかった。しかし不思議なことに、その日は大人しく伏せていた。きっと彼女なりに気を利かせていたのだろう。

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帰りに鵠沼海岸を散歩し、左手に江ノ島、右手に富士山を望む景色をバックに彼女の撮影会をした。その時、「今しかない!」と私はスマートフォンをインカメモードにして構え、2人を促し、シャッターを切った。ぎこちない表情の3人が画面に収まったその瞬間、一生の宝物ができたと私は確信した。

帰り道、彼が彼女のリードを持てるほど2人の距離は縮まった。無論、彼女は彼を散歩させてあげてるくらいの気分だと、私に目で訴えていたが。
自宅に到着すると、私は彼女にお礼を言った。彼女は「食べ物にまつわることならいつでも」と言わんばかりにベッドに丸まって、眠りにつこうとした。私は自宅を出て、夕方から始まる授業を受けるために彼と駅に向かった。

その日の夜、彼と共に先輩たちとの飲み会があった。彼が席を外した時、私がある先輩にその日の出来事を話すと、先輩は「それは2人で会うための口実だよ」とニヤニヤしながら言った。しかしその日の彼の眼差しや行動の節々から、そうでないことは明らかだった。この人はそこら辺にいるありきたりな男とは違う。だからこそ、心惹かれてしまうのだ。
あれから5年以上経ち、相棒や母の死、そして転勤に伴う2度の大規模な転居など様々なことを経験した。恋人ができては別れるということもあった。その間ずっと、彼は私の精神安定剤だった。あの日の「3人デート」のことを彼と語るだけで、あの日の写真や動画を彼と共有するだけで、精神が保たれる感覚がしたのだ。そんな付かず離れずの私たちを、彼女は半ば呆れながら、空から見ていたに違いない。そしてきっと、これからもずっと…。