中学一年生の春、初めて告白された。
「一目惚れです、付き合ってほしいです。」
同級生の野球部の男子だった。私は、初めての告白だったのに全く心が躍らなかった。モテたい、好かれたいという欲求はもちろんあるから、嬉しくない、と言えばうそになるが、少女漫画のように、ドキッのような効果音はなかった。もちろん、相手の緊張はひしひしと伝わってきたが、それさえも私の心を冷めさせていった。

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「私のこと何にも知らないくせに。」
そういって、私は去った。今思い返すと、相手の気持ちを一切思いやらない自分への意地悪さ、中二心、申し訳なさがごちゃごちゃになって叫びたくなる。
ただ、私はわからなかったのだ。私の知らない誰かが、私の知らないところで勝手に好きになった、それが私にはどうにも気持ちが悪かった。

あの頃の私には、理想があった。同じクラスになった男子が、お互い意識していなかったのに、だんだんとお互いに惹かれていく。夏祭りに私が誘って、その男子が私に告白をする。同じクラスになったのは、運命だったのかもね、なんて思い出話をする。中学生の、痛々しい妄想だ。私は一目惚れのような突発的な運命に興味はなかった。運命なんて信じない、運命なんかに人生の手綱を持たれたくなかった。

中学校生活は、その一回きりの告白で浮かれた話は終わりを告げた。体育祭、修学旅行、文化祭でカップルの増減が起こるたびに、一度くらい何も考えずに付き合ってみるべきだったか、などと自分勝手なことを考えたりした。(ちなみに、告白してくれた野球部の男子は中学三年生の修学旅行で公開告白をして、彼女ができていた)

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そして、華のJKとなった私はモテたい、彼氏が欲しいという欲求は増していた。次は、告白されたら絶対付き合おう、なんて考えていたが、高校一年生は告白など一度もされずにコロナ禍に突入した。高校二年生、マスクありの生活。顔も隠れれば、心も隠れる。お弁当の時か、仲良くならないとマスクを外した素顔も見られなかった私たちはきっと、一目惚れどころか恋愛すら起こらないと思っていた。
しかし、学校再開したときの電車で、私は一目惚れをしてしまった。しかも、一つ下の後輩である。シューズを持っている姿からバスケ部らしく、身長は180㎝は軽く超えているようで目を引くような男子ではあった。ただ、私が一目惚れしたのは、この大男が自分で作ったような小さな単語カードをぺらぺらとめくっていたこと、シューズケースがずいぶんと古そう、だけど丁寧に扱っているようだったことなのである。彼が可愛くて、目が離せなかった。それから、毎回同じ号車に乗り、彼の持ち物、手の動きを目の端で見つめ続けた。もし、もし付き合ったら、彼女のことも丁寧に扱ってくれるだろう、なんて想像もした。

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結局、私は思いを告げずに、
結局、彼のマスクなしの素顔も知らないまま、
結局、彼の声さえ知らないまま、

私は高校を卒業した。

一目惚れなんて、と思っていた私に教えてあげたい。
確かに、一目惚れってわからないものだらけな恋だけど、見えるもので分かることも、惹かれてしまうこともあるということ。その人を知りたいって思う気持ちは、恋だ。

どんな恋でも愛でも、相手のことをすべて理解することなんてできないんだから、自分の目を信じてみても、いいじゃないか。