私は人生で一度だけ一目ぼれしたことがある。忘れもしない2015年の春、もうこのサイトで何度も投稿している、おなじみの一色くんに恋をした。

以前忘れらない恋の思い出のエッセイとして一色君の件について書いてから、かがみよかがみの編集部さんが「その後どうなりましたか」とコメントをくださったことがとても嬉しく、このテーマはまさにまた彼のエピソードを掘り返す時だと思い筆をとっているしだいである。

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一目ぼれというのは、漫画ではよく「世界がぼやけて見えて、そこにはまるで彼と私しかいないように感じる…」とあるが、まさにその通りであった。
一色君というのは私が高校一年の時に私の斜め後ろに座っていた窓際のイケメンなのだが、そのルックスとは裏腹、とても暗いオーラを放っていたのである。出席番号一番から自己紹介をしていったあの日。「漢字の一に色と書いて一色と読みます。よろしく。」とだけ不愛想に言って、何事もなく席に腰をかけたっけ。その瞬間体中の細胞が騒いだ。窓の向こうの桜のピンクとは対照的な君の表情だけが脳裏に焼き付いて、君を救いたいと思ったのは私のエゴだったのかなと、あれから何年たっても思ってしまう私は、君を好きな自分に恋をしていたのかな。
一色君は、どこか自分に似ているところがあったから好きになったのではないかと後々気づくようになった。いつも人の目を気にしていて、朝礼などの大人数の集まりでは毎回目が合って。そりゃあ、君を第六感で感じるように生きていたのは私だけど、君はいつも私と目が合った。そんな気がしているのは、自分だけだったのかな。
結局三年間告白もせずに君にまとわりついて、確信めいた事なんて言える勇気なんてなく、君とつかず離れずな関係を続けたのは、私自身が傷つくことから逃げていたからだととても後悔している。

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高校卒業と同時にインスタグラムを始めた私は、一色君のアカウントをフォローすることを戸惑っていた。鍵垢の向こうには、私が知りたくない一色君のプライベートが沢山詰まっていそうで、見るのが怖くて怖くて、だけどとても知りたかった。彼女なんていらないといっていた君にも、彼女ができているのかな。関西の大学で、たくさん友達出来たのかな。どんなストーリーを投稿しているのかな。なんで高校生の時にSNSにハマらなかったのだろう。もっと早く始めていたら…。いろいろな後悔はあったけれど、私は迷った挙句、思い切って一色君をフォローした。
数日たって、案外あっさりとフォローバックされたときは、嬉しすぎてスマホをベッドにすごい勢いで投げた。恐る恐る見る君の投稿は一人旅の写真、学食でパフェを食べたストーリー、そして高校の卒業式の写真もあった。
「部活最後まで続けてよかった」
一色君は私も含めた部員との卒業式の写真を投稿してそう綴っていたが、彼は最後まで部活を続けていない。一色君が塾に奮闘するからと二年の冬に退部すると聞きつけたマネージャーの私が、彼を説得するために言った言葉だった。
「部活続けてよかったって思う時が来るよ、だから辞めるの辞めようよ。」
この言葉が、彼の中にずっと残っていたことを再確認した。
それからしばらくして、一色君の「親しい友達」限定のストーリーも見れるようになった。
あの出会いから九年も経ったとは信じられないが、私には現在結婚を前提で付き合っている人がいる。だからこそ、一色君もどこかで幸せになっていてほしいと思うと同時に、君と唯一のつながりであったインスタグラムが更新されないのが寂しい。