「人を大切にしたいのであれば、まず自分を大切にすること。例えば、身だしなみをきれいにする」

自分の場合、疲れきっているときや心身不調の時は髪が伸びっぱなしのことが多い。
それ以外にも毛先は痛んで枝毛切れ毛、髪色が「プリン」になっていることもある。
きれいに整える、という思考が止まっているからだ。
そのような時は美容院を予約し髪をばっさり切ってもらったり、髪色を変えてもらっている。イメージチェンジの目的もあるが、もう1つ大切な目的がある。

就職して2年目だった。
新卒で希望した部署に配属されたが、同僚との不仲や度重なるミス。
相次ぐトラブルに加え「この仕事は好きだが得意ではない、どんなに努力しても成果が出ることはない」と自分を追い詰めた結果、心身共に不安定になってしまった。
その後経験したことない分野の部署に異動となったが、気持ちの整理が追い付いておらず、その部署でもミスを連発した。
周囲は公私ともに順調とのことで、話を聞く度さらに自分は「ダメな人」と追い詰めていった。

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日に日に活力がなくなっている自分に上司は気づいており、毎日上司が話しかけてくれるようになった。最初は業務に関する指導だったが、次第に直近で気になったことや上司の過去の話などプライベートの話もできるようになった。

ある日出勤すると、上司が「どうした?」といきなり声をかけてきた。
その時期精神面がとても不安定だったために、前日夜に知人とチャット内で喧嘩をした。

それを引きずっていたのか、出勤前に身だしなみを確認した記憶がなかった。
経緯を簡単に説明し「今日も元気がないです」と伝えたところ、「誰かを大切にしたいのであれば、まず自分を大切にすること。例えば、身だしなみをきれいにするとか」と上司がアドバイスをしてくれた。

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「身だしなみを整えることで、自分を大切にする」

会話後にロッカー室で自分の姿を鏡で見た。よどんだ目、への字に曲がった口、ぼさぼさ髪、醜い人が立っていた。
この時、限界を通り越していたことを改めて自覚した。

「まずは自分を大切にするためにきれいになる。何ができるか?」
最初に思いついたのは、髪型を変えることだった。
決心してから美容院に予約したのが速かったことは覚えている。

現在もだが美容院の席に座って今の自分の姿を見るとき、「変えると決断するには、勇気が必要だ」と思うことがある。
あの時も席に座った時、顔にグッと力が入っていた記憶がある。
変わることは予想以上にエネルギーを消費する。
それでも自分を良い方向に変えたいのであれば、エネルギーの消費も惜しみたくないと決断した。

「今回は少し短めにしてほしいです、それと髪色も変えたいです」。
施術後の自分の姿を見た。「変わったな」が第一印象だった。
美容院を出た後、負の感情がなくなって心も軽くなったような感覚も得た。

その時、久しぶりに笑った自分を見ることができた。

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それから数年経った。
自分が転職した為その上司と会話する機会は無くなってしまったが、あのアドバイスは今も覚えている。
あの時を振り返り、「身だしなみは自分の内側を表す」という言葉があるように、心に余裕がない時自分の外見よりもまず目先のことが優先になり、自分を振り返ることが難しくなる。それが続くと身だしなみがおろそかになり、自分を大切にすることを忘れてしまう、そして人やものも大切できなくなってしまうおそろしさを上司は伝えたかっただろうと考察している。

髪型を変えるなど身だしなみを整えることは予想以上にエネルギーや費用がかかることもある。しかし自分を大切にすることを何よりも価値のあることとしてとらえ、行動することも時に必要だと信じている。

これからも自分を大切にするため、身だしなみを整える。