私は、友人関係のもつれや学業面で上手くいかないことがあると、気分転換に自分で髪を切ってしまう癖があった。そのため、中学2年生までずっと顎より少し上くらいのショートカットだった。髪を切っても問題はなくなる訳ではなかったから、段々切れる髪が減ってきて、私は引きこもって人との関わりを遮断した。

引きこもっている間に髪は伸び、高校に入学する頃には胸元くらいの長さになっていた。私は高校でもうまく馴染むことはできなかった。でも、昼休みの時間に1人でぼーっとしている私に2年生の学年主任のA先生が「一緒にお弁当を食べよう」と話しかけてくれた。その日から私はA先生と昼休みを過ごすようになった。

A先生はいつもお昼にコンビニ弁当かカップラーメンを食べていた。「もっと栄養があるものを食べた方がいい」と私が言うと決まってA先生は「じゃあ作ってくれんの」と言った。私はそんなやり取りに日々心踊らされ、いつからかA先生に会いたくて学校に通うようになった。

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時が経つにつれ、私の中に先生にも自分のクラスがあるのだから、先生に頼らないでも学校に行けるようにならなければという気持ちが湧いた。それから少数ながら友達ができ、友達と過ごす時間はとても楽しかった。しかし、私はA先生との昼休みがなくなったのは少し悲しかった。

髪が胸下くらいまで伸びた頃、私は学年が上がり、2年生になった。新入生の後輩達の中には、以前の私のように新しい環境についていけず、一人でいる子がいた。A先生は当然のようにその子に声をかけ、昼食を共にした。

私は見苦しいとはわかっていても嫉妬を抱いた。しかし、そんなA先生が好きだからその中に割って入ることも、私ともお昼を一緒に食べてくださいと言うこともしたくなかった。半年が経ってもその子とA先生は一緒にお昼を食べていて、学校行事でも2人は一緒にいた。

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学祭で、教員のプロフィールを掘り下げる催し物があった。そこでA先生は女性のタイプを質問され、戸惑いながら「セミロングが好きかな」と言っていた。私は頑なに伸ばしていた髪をその週の土曜日に美容院へ行き、あっけなくセミロングまで切った。週明けにクラスのみんなには反応してもらえたが、A先生とは特に何も話さなかった。

私は3年生の前期に修学旅行で遊園地に行った。帰りにお土産を見ている時、友達が担任の先生と部活の顧問にお菓子を買っていた。私もA先生にお世話になったので、何か渡したいと思い、ボールペンをお土産に買って帰った。

A先生は笑顔で受け取ってくれた。その数日後、A先生は筆記用具を忘れた生徒にそのボールペンを貸していた。私はその時、それまで大きな勘違いをしていたことに気づいた。A先生はあの時、“学校に馴染めなくて困っている生徒がいたから学校生活から再びあぶれないように”声をかけてくれたのだ。

当たり前だが、私は最初からずっとただの生徒でしかなかったのだ。卒業式の日、私は耳上のベリーショートの姿で教室の扉を開いた。A先生は少しだけ驚いたような顔で私を見ていた。