付き合って8年、婚約から2年、結婚式を控えた今年の夏、住民票に「妻(未届)」と続柄を変えた。
良く晴れた天気のいい日で、手続きを終えて外に出たとき、外の世界は手続き前となにも変わっていないけれど、確かに変わった住民票を、自分の手でにぎりしめていることが嬉しくて、すごく気分がよかった。
そこまでの道のりは長かった。
区役所の窓口での手続きで嫌な気持ちになったりした。
でも、マイナスな気持ちも吹き消すくらいに、私は胸を張って、事実婚の一歩の手続きをしたんだ、という誇らしい思いでいっぱいになった。

「いつ入籍する?」に湧き出てきたのは名字を変えたくない思いだった

本当に、ここまでは長かったのだ。
きっとこのままこの人と一緒にいるんだろう、と彼との結婚を意識し始めた頃、彼からプロポーズをしてもらった。断る理由なんてなくて、とても嬉しくて、婚約した。
その後、いつ入籍する?という話になったとき、ふと、自分の中にむくむくと「名字を変えたくない」という思いが湧き出て、消そう消そうとしても、その違和感が胸にこびりついてしまった。

私が社会人1年目で、やっと職場で名前を覚えてもらった時期だったからというのも一つの理由。
でも、それよりも、入籍して、彼の姓になったら、今まで私が生きてきた25年は、今の名前で生きてきた人生はどこに消えてしまうんだろう、という自分の居場所がわからなくなるような喪失感が大きかった。

「じゃあ彼に名前を変えてもらえばいいじゃない」と周囲の人には言われたりした。
でも、問題点はそこではなくて、私は相手を自分の姓にしたいわけではなかった。
一緒にいたいと思うだけなのに、相手は相手で、私は私、なんでどちらかが名前を変えないといけないんだろう、という強烈な違和感があっただけだった。

はぐらかしてしまった入籍。改姓への思いを泣きながら話したあの日

婚約後すぐに、いつ入籍する?と尋ねた彼に、私は、職場の新人なのに名前を変えて結婚したって思われるのはしんどいから、もう少し先で、とはぐらかしてしまった。
正直、入籍する、ということが、相手と自分の距離を遠くして、気持ちさえ冷めてしまうような思いになって、私は自分の思いをうまく言葉にできない時期が1年ほどあった。

そろそろさすがに話をしなくては、と彼に入籍の話をしたい、と伝えたとき、彼は「実は実家に帰るたびに両親から入籍はいつか、と聞かれてつらかった」と言われた。しんどくて申し訳なくなった。

婚約して1年以上経って、結婚、入籍、改姓への思いをふたりで話をしたとき、途中から綿が泣き、気付いたら彼も泣いていた。

彼は「自分の苗字に変えてもらうのが当たり前だと思ってた。でも調べてみたらそういうわけでもないと思った。選ぶなら覚悟はいると思う。(私が)つらいことをしたくないし、させたくない」と言ってくれた。
入籍に前向きではない私を、彼は嫌いになっているんじゃないかと不安になっていたから、話ができたことがまず、とても嬉しかった。
そのうえで、私が嫌なことはしたくない、と言ってくれたことが嬉しかった。

きっと、入籍に対する、私と彼の気持ちは、全部が全部、一緒ではないし、理解できない部分もあるに違いない。
それでも、お互いをむやみに傷つけないように、自分の意見を伝えて、話し合って、選択的夫婦別姓が法制化されるまで、事実婚でいることを選んだ。
お互いの両親に伝えたときは、とても驚いていて、その反応で「やっぱり入籍したほうが……」と迷いも生じたけれど、話し合ったことを伝え、私たちの今の選択を受け入れてくれた。

時間をかけて選んだ「事実婚」の一歩は、私にとって大きな一歩だ

しかし話し合いをした後、事実婚の証明の一つである住民票の続柄の記載を変える手続きを、いつ行うかを彼とは決めていなかった。
実際彼は平日帰ってこないこともあるくらい忙しかったし、月に休みは3日くらいの激務の時期で、到底役所が開いている時間に行けそうもない。
私は平日の休みを使って、ひとり、区役所に出向いた。

区役所の窓口の方は、あまり対応しない事例に戸惑ったようで、「ちょっと待ってください」と言って上司に聞きに行き、30分以上待たされてしまった。
本籍地に私と彼が、結婚していないことを確認するのにまた30分。
続柄を変更した住民票を渡されるときには「正式に入籍したらまた手続きに来てくださいね」と言われてしまった。
まだ公的に結婚は認められていないです、と突き付けられたようで、また気持ちが揺れた。

でも、「妻」と書いてあることが嬉しかった。未届でも。彼にすぐ連絡した。
彼、でももう、夫って言ってもいいのかな。ちょっとドキドキして待っていた返事には
「ありがとう!すごい、妻って書いてあるの嬉しい」と書いてあった。
その返事をみて、またとても嬉しくなった。

事実婚は確かに覚悟のいることだ。この日の気持ちを忘れないでいたい

夫が言ったように、事実婚を選ぶなら覚悟はいる、というのはその通りで、法律婚ではない現状では、保険、税金、年金、相続などなど、手続きは山ほどある。
それでも、時間をかけて話をして、両親にも相談して、選んだ事実婚の一歩を、胸を張って踏み出せた。

それはきっと気持ちに正直になって、思いを言葉にして、大事な人と向き合ったからだと思う。これからもいろんな人の言葉で、対応で、心が揺れてしまうことも、くじけそうになることもあると思うけれど、小さな一歩だけど大きな一歩だった、この日の気持ちを忘れないでいたい。