2年前、当時働いていた会社では合併したばかりの新しい会社のあれこれを、まるっと引き受けてしまったばかりに残業は当たり前、月末月初は仕事を家に持ち帰っても終わらず深夜まで仕事をし続ける毎日を過ごしていた。
仕事が最悪なら、プライベートも最悪で、ずっと付き合いを続けてきた友人に振り回されることが増えたり、好きだった人にも好意を気づかれていながら、都合よく誘われ甘い言葉に絆され、その度信じては、やっぱり冷酷に突き放されることもしばしば。
楽しいよりも疲れることばかりで、とにかく何かどこか解放されたい、全て一旦手放したらどれだけ自由で心地いいだろう、とりあえず仕事を先に手放したかった私は、転職活動をし始めた。
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そんな時、たまたまある会社からスカウトメッセージをもらった。
それは沖縄にあるとある会社。東京で今まで働くことを当たり前と思ってきたわたしにとって、沖縄で働く、というのは発想にすらなく、予期せぬ出来事だった。
知り合いもいないし、修学旅行以来行ったことすらない、馴染みのない土地。
でも、誰も知らないなら、新しい人間関係ができる。振り回される友人も、よくわからない勧誘をする友人も、冷酷な好きだった人もいない。仕事も変えられる。
なんだ、全部手放せるじゃん。これに乗ってみるのはチャンスかもしれない。
気軽な気持ちで応募して、転職をすることにした。
行くまでは退職のための引き継ぎ、引越し、これまで仲良くしてくれた方々とのお別れ会など日々予定が詰まり、やっぱり体力的には疲れる日々が続いた。
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着いてみたら、まず東京よりも太陽の日差しが明るく、強く感じて、秋に移住したにも関わらず、真夏のように暑い気温。
それだけでもだいぶ違う環境にきたという実感が湧いた。
今まで転職する度に、辞めてもプライベートで仲良くしてくださる先輩後輩がいたから、新しい会社で仲良くなることにはそこまで不安はないはずだった。
でも、今までとは違ったのは県民性。
シャイな方が多く、他県の人に関わるより、県内同士の独特の群れ、というか空気感があった。
なので、思っていたよりプライベートで会うほどの関係性の人ができるまでには時間がかかり、休日や退勤後は1人で過ごす時間が圧倒的に多かった。
東京にいた頃は仕事が忙しくても、休日1人で家にいるよりは、家族とご飯を食べに行ったり、友達と遊んだり飲んだり、誰かとの予定を埋めることに必死だった。
1人で、誰にも何も話せず、仕事で感じる圧迫感を吐き出せない、孤独感を感じることの方が嫌だった。でも帰ればやっぱり疲れてしまい、休む時間も必要だったかもなと思い知るばかり。
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SNSで見る、友達と遊んで充実した日々を送る他人が羨ましくて、仕事はつらくても、プライベートは充実してるって思いたい、私も他人に楽しい日々を過ごしていることを共有したい、そんな承認欲求が休日の予定にあらわれていた。
沖縄にきて、友達もいなければ車の運転ができない私は、行動範囲も限られていて、映画を見に行くか、海を眺めに行くか、ぐらい。それも全て1人。
最初の頃は、これを誰かに話したい、やっぱり誰か友達が欲しいとは思っていたが、段々そんな日々を重ねていくうちに、1人なら1人で誰かの時間を気にせず好きな場所に、好きなだけいられて、今日はここに行ってみようと思い立って、バスを乗り継いで出かけることもできた。
人がいると気を使ったり、行きたくても難しいことがあったり、それで諦めたり、なんてこともあるけれど、自分だけで自分を充実させることが、自由で思いのままにどこへでも歩いていけることに気づいた。
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誰かと一緒にいたら、楽しいことは共有できるけれど、共有するために楽しむものでもない。
自分が自分で楽しい、面白い、ワクワクすれば、それはそれで充実した時間になる。
島にきて、全て手放して逃げた私が気づいたこの感覚。
おかげで今はたくさんの趣味があって、1人で映画、立ち飲み、ライブ、温泉、買い物なんでもいけるし、それで十分楽しい休日を過ごすことも出来る。
1人なら楽しいけど、誰かがいたらより楽しい。
人がいることを当たり前とも思わないし、自立できる自分に出会えたから、逃げることは悪くなかった。