もう3年も前のことになる。私は大学進学と同時に東京で一人暮らしを始めた。残念ながら当時はコロナ禍真っただ中だったため、せっかく上京してきたというのに大学はすべてオンライン講義、行動制限で外に出ることもできなかったが、それでも東京で暮らしているという事実だけで私は十分だった。

今まで田舎で生まれ育ってきた私にとって、東京は常に人が多く、とてもにぎやかで、また時には自分の身の丈に合っていないような気がして、なんだか不思議な感覚だった。

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大学の講義はオンラインといっても、画面越しに教授や同級生たちと顔を合わせることも少なくない。高校時代までおしゃれに疎かった私は、東京生まれ東京育ちの同級生たちに後れを取らないよう、イメチェンを始めた。

メイクにファッション、そして髪型。何より私の中で一番大きなイメチェンはおでこを出したことだった。これまでは一直線に切りそろえていた重い前髪を、思い切って伸ばすことにしたのだ。

真ん中で分けられた髪の毛からのぞくおでこが新鮮で、最初は慣れなかったがそのうちなじんできた。前髪がある程度まで伸びてくると、私の髪形はテレビでよく見る「仕事のできるかっこいい女性」のようになり、背筋がピンと伸びた。

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髪型を変えただけだというのに、とたんに自分も「仕事のできるかっこいい女性」の仲間入りを果たしたような気持ちになった。今の自分なら何でもできるんじゃないかとさえ思った。この私にかかれば大学の講義もちょちょいのちょいだ、と自信に満ち溢れていた。

「何事も心持ちが大切。自信があればおのずと結果はついてくる」とはよく聞くが、思い切って髪型を変えたおかげだろうか。大学1年生の講義は無事乗り切ることができた。前期の授業に至ってはフル単達成だ。難しい講義もあったというのに我ながらやるではないか。2年生、3年生もこの調子でいけば順調に進み、あこがれだった東京で就職できるかもしれないと思っていた。

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そんな輝かしい日々からもう3年が経ち、今の私はというと、大学を中途退学して実家に戻り、本を読み漁る毎日だ。事の発端は大学2年生の夏休み、実家に帰省した際に熱中症になったことだ。運悪くその後もバタバタと体調とメンタルを崩し、持病の関係もあって、気づけば東京に戻るだけの元気がなくなっていた。

その間に私はすっかり自信を無くしてしまった。自分が思い描いていた理想の将来像からは程遠く、一般的な人生のルートからも外れてしまった。自己嫌悪に陥ってはふさぎ込んで、大学時代の友人との連絡もすべて絶った。あんなに頑張っていたのに「大学を中途退学しました」なんて素直に高校の同級生に言えるわけもなく、自然と連絡を取る友人も少なくなった。

だけど確かにあの時の前髪は私に自信を与えてくれた。現在は生活リズムの崩れからおでこのニキビまで出現し、私の前髪はそれを隠すように元のスタイルに戻ってしまっているが、心機一転髪型を変えてみるのもいいかもしれない。

またおでこを出してみる?思い切って腰までロングに?ベリーショートというのもかっこよくてあこがれる。見た目も変われば中身も少しばかり変わる。自然と自信がついてくる。今また髪型を変えれば、新しい自分へ踏み出せるかもしれない。