あの頃好きだった場所はもうない。私は私の場所で生きていく

行く当日まで本当はずっと迷っていた。
高校時代の友人の結婚式。
式自体は楽しみだったし行きたいと思っていた。
が、問題は来るメンツだ。
高校時代、大所帯なテニス部に所属していた事もあって最近結婚式ラッシュが来ている。
その度、高校時代の部活仲間が集まるのだが私はどうもこの集まりが苦手だった。
というより、苦手に〝なった〟と言った方がいいかもしれない。
高校時代は、このメンツでいるのがとても好きだった。
いつもバカ騒ぎばかりしては「テニス部うるさい!」なんて怒られる。
そんなキラキラした青春時代。
毎日毎日笑っていたあの頃を本当に微笑ましく思い返す。
が、高校を卒業して、大学を卒業して、社会人になって少しずつ、けれど確実に何かがズレていく感覚。
元々私の部はかわいくて綺麗でモテる子が多かった。
その中にぽつりといる自分について高校時代は特に何を思うこともなかったのに。
大学に入り、社会人になり、横並びだったはずの私たちはどんどんステージが変わっていった。
可愛い子はどんどん彼氏を作って結婚していく。
それに引き替え私は出来る気配もない。
「稲葉に彼氏とか笑」
部活のメンツにそう言われることもあったし
逆に今20代後半になって彼氏は居ないといえば鼻で笑われる。
…あれ、うちの部ってこんな感じだったっけ。
いつの間に、いつから、こんなに下に見られるようになったんだろう。
集まりに行っても、彼氏、旦那の話ばかり。
あの頃は自販機のジュースの話なんかで盛り上がっていたのに。
仕方ないのかもしれない。
彼女たちはもう次のステージにいるんだ。
いつも一緒にいる彼氏、旦那の話で盛り上がるのは当然。
大人になっただけ。
そして、私がまだ子供なだけ。私が遅れてるだけ。
…私が頑張れてないだけ。
私生活は充実していると思うのに、話についていけない自分が情けなくて惨めで悲しくなる。
みんなと居るのに楽しくない。
「え、彼氏まだ居ないの?」
鼻で笑われると悲しくなる。
あれほど楽しかったこの場所がしんどくて仕方ない。
社会人になると同い年でも、その人ごとにステージが変わる。
ステージが違うとあんなに仲良かった人とも傷つけあう関係になってしまうのだろうか。
私が頑張って同じステージに行けばいいだけ?
次のステージに行けない私が悪い?
友人の結婚式中、色々考えたけど、答えは出ないままお開きになった。
「次の会場、稲葉決めてよ〜」
そう言われて二次会会場の予約を式外でしていた時、ふと目の前を高校生2人組が自転車で通過した。
部活帰りなのか、大きなリュックを荷台に載せ笑い合う2人。
帰ろう。
ふっと湧いてきた自分の感情に驚く。
高校生の2人をみて私は悟ったのかもしれない。
もうあの頃には戻れないんだと。
楽しかった日々を大切にするのはとても幸せなことだ。
けれどそれにしがみついちゃいけない。
卒業したあの日、きっと私たちは別々の道を歩みはじめ、今はそれぞれの場所がある。
あの頃のままでは居られないんだ。
自分のステージを目いっぱい生きよう。
前を向こう。
それから私は予約を私以外の人数で予約し、式場を後にした。
式場から家まで距離はあったけど、なんとなく歩いて帰った。
あの頃のことを思って少し寂しくなったけど、足取りは行きより軽く感じた。
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