2010年、とある日の朝6時50分。私の人生は変わった。
小学校に行きたくなくて、はあっとため息をつきながら床に座って白靴下を履いていた私。
時間を把握するために、流れっぱなしになっている朝の情報番組を見ていた。

「さて、今日のエンタメニュース。まずはこちら」
「話題の18枚目シングル、MVメイキング映像が届きました」

当時国民的アイドルへと成長途中で、大衆の注目の的だった女性アイドルたち。
流行りに疎い私でも、何か名前聞いたことあるかもとは思ったけれど、全く興味はなかった。
画面が切り替わると、そこではシースルーの白シャツに黒いネクタイ、ミニスカートにロングブーツを履いた女の子たちが、センセーショナルな歌詞の歌に合わせて踊っていた。

かっこよくて、あまりにも、強い。

「僕らは夢見てるか」と歌う姿は鮮烈で美しかった。野望とか意志とか、そういう言葉が似合っている女の子たち。学校に行っても、ずっとあのアイドルのことで頭がいっぱい。
もっと知りたい、もっと聞きたい、どんな人たちなのだろう、早く、早く。
家に帰って、ランドセルを投げ捨て、慣れないパソコンで検索した。画面の中の彼女たちは、想像していたのよりもずっと可愛くて、かっこよくて、きらきらしていた。こんなときめきは、後にも先にもこの1回だけである。

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私は当時とても内気な小学生で、休み時間に絵本ばかり読んでいる子だった。
流行りのものなんて全く知らなくて、周りの子たちが話す内容がいまいちピンとこなかった気がする。

コンプレックスも多かった。周りよりふっくらした体型、運動音痴、緊張しい、人見知り、声が小さい、臆病。そして、自分は周りの子たちのように、学校生活をはじめとして色んな物事をうまくできないのだと気づいていた。
そのため、「可愛い」という概念とは遠い存在であるという自己認識をしていて、「可愛い」の領域に自分が入ってはならないと思っていた。ピンクの色味をしたものやファンシーなデザインは徹底的に避けていた。自分が「可愛い」に近づいたら、きっと馬鹿にされる。

それまでなりたいと思うものはなかったし、自分なんてどうしようもないと半ば諦めていたけれど、彼女たちに出会ってから、自分もこんな風になりたいというのが夢になった。
よし、変わろう。
いわゆるレコーディングダイエットをして、食べ過ぎを防ぎ、体重を維持して身長が伸びていくのを待った。すると1年くらいするとかなりすっきりして、自信が持てるようになった。
内気で自分から話しかけるのが苦手なら、あの彼女たちのように笑顔を多くすれば人から話しかけられやすいと考え、実行した。話すのに慣れてきたら、その頃既に日本中で大ブームになっていた彼女たちの話題を出して、同じくファンになっていた女の子たちと一緒に盛り上がった。ここまで来たら、可愛らしいものも使いたいと思い、クラスの美人な友達を真似して、ピンクの下敷きを買ってもらった。初めて手にした「可愛い」は、とても眩しかった。

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彼女たちと出会ってから2年ほど経った夏、プール授業の前にクラスの子から言われた。
「なんか〇〇ちゃん、昔と比べるとすごい変わったよねえ。今のほうがいいよ」

そう、変わったんだよ。自分で変えたし、憧れのあの子たちが変えてくれた。自信をもって自分を表現できるようになれたのかもと、その言葉を聞いて嬉しくなった。

あれから10年以上経つ今でも、私はそのアイドルたちが好きである。すっかり世代交代して、今は私と同世代の子たちがグループを引っ張っている。あの頃活動していたメンバーはほとんど卒業していった。それぞれの道で奮闘する姿は今もかっこいい。独り立ちしてからまた新しい夢を追いかけているのを見ると、自分もこんな大人になりたいと将来に勇気を貰える。

彼女たちは今も私の夢で、ヒーローだ。幼かった私を救ってくれて、自分らしく輝く術を教えてくれて、ありがとう!