今思い出しても涙が出そうな事件がある。特に推しがいる人は、どうかSNSの使い方を考え直す機会にしてほしい。

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私にも心から大好きだった推しがいた。というか、推しのグループがいた。いわゆるオタクだった私はTwitterでオタ垢を作って同じ界隈の人と仲良くしていて、フォロワーも1500人を超えるような交流を重ねていた。幸せだった。推しを応援するのはとても楽しかった。あるニュースが上がるまでは。

グループの中の一人が電撃結婚を発表したのだ。お相手はかつて何度も交際をすっぱ抜かれていた女性で、ファンの間では"匂わせ"をする女としてそれはそれは煙たがられていた。そんな女性と結婚したのだ。祝福するファンを覆い尽くすように、批判の声がTwitterを荒らした。

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私は驚きはしたものの、半ば諦めのような気持ちで結婚報道には触れなかった。所詮はアイドルとファン、他人と他人、結婚に口を出せる立場ではない。かと言って批判が飛び交うのも仕方ないことだと思っていて、しばらくは静観していた。
しかし、その熱は冷めやらず、とうとう一週間以上もトレンドに彼の名前が入るほど、世間は彼の結婚を受け入れなかった。私のタイムラインもその話題ばかりで、だんだんと腹が立ってきたのだ。それでつい、毒を吐いた。

「もういい加減よくない?見苦しいんだけど」
特定の誰かに対してのツイートではなかった。強いて言えば、アンチばかり続ける同じ界隈の人間に宛てたものだ。でもこれがいけなかった。
当時の私はフォロワー1500人もいるアカウントに鍵をかけていなかった。私のツイートは不特定多数の人に見られ、いいねもそれなりについた。しかし、匿名でメッセージを送れる"お題箱"にはこんな意見が飛んできたのだ。

「見苦しいなら非表示設定すればいいんじゃないですか?自衛してください」
それを見て、私の怒りはさらにヒートアップした。
「アンチ言ってる側の人間のために、なんで私が自衛しなきゃならないんですか?」
「Twitterってそういうもんでしょ。自由に呟く場です」
「自由なら何言っても許されるんですか?今は本人もSNSを見てる時代なので、ツイート自体をやめていただきたいです」
「脳内お花畑ですね。さすが〇〇担」
かなり簡略化しているが、実際はもっと酷い。自分が間違ったことを言っているとは思わないが、その当時は口論の中で自分の推しの名前を出されたことで頭が冷えて、涙が溢れてきた。

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自分のせいで推しが悪く言われた。同じグループを好きでも、私の推しを悪く言う人がいた。理由はいろいろあるが、とにもかくにも私は笑いそうなほど傷ついた。何より悔しかったのは、そんな扱いをされる世界で推しは活動をしているのだということを突きつけられたことだった。

SNSの誹謗中傷が原因で人が命を絶つ事例は残念ながらある。それをニュースで知りながら、でもどこか他人事として捉えている自分が少なからずいた。自分のいるオタク界隈は安全圏だからとタカをくくっていた。でもどの界隈にも、「人目に触れる職業をしている者には何を言ってもいい」「SNSは自由」を信じて疑わない人がいるのだ。

私の推しは数年前からメディアから姿を消した。はっきりとした理由は本人にしかわからないし、寂しかったが、本当は心の片隅でほっとした。

お題箱を通してメッセージを送ってきていたから、私はやりあった相手のアカウントを知らない。 卑怯だと思った。誹謗中傷をする人間はそうやって、自分が"守られている"ことを知っていて行うのだ。SNSの化けの皮を剥いだら、そういう輩がうじゃうじゃいることを忘れてはならない。