自分では、ショートカットが似合うと思っている。
ロングはむしろ、野暮ったくなってしまって似合わない。
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初めてショートカットにしたのは中学生の時である。当時所属していた部活動の監督が「強いチームはみんな髪の毛が短い」と言ったからである。
今となっては、そんなもの強制するようなことではないと思うし、下手したらセクハラだなんだと言われかねないんじゃないかとも思うが、当時のわたしはまんまと影響されて、生まれて初めて髪の毛を男の子のように短くした。
それ以来、何年もわたしの髪の毛の長さが肩を越えることはなかった。
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ショートカットにして以来、初めて髪の毛をくくれるようになったのは、大学入試のときだったように思う。
入学式前にはまた短くして、それ以来またしばらく短かった。
また髪の毛をくくるようになったのは、実習の時、就職活動の時、卒業論文を提出した時。主に大学4年生のころである。
それからはしばらくセミロングで、入社して半年経つか経たないかの頃にまた短くした。
ショートカットはわたしがわたしらしくいられるもののひとつである。
だからわたしは髪の毛を切るのだ。もはや髪切るの趣味だな、と思うほどである。
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だが、わたしはショートカットを必ずしも維持しない。
というより、できないのだ。
「自分らしい」ということが第一優先されないとき、わたしは髪の毛を切ることができない。
試験勉強や論文執筆は自分を殺して机に向かわなければならなかった。
実習も就職活動も、「自分らしさ」「個性」を求めていると言う割には皆同じ髪色を作って、同じ髪型にして、同じ服や靴を身に着けて、同じ鞄をもって、似たようなことを言うだろう。
わたしも例にもれず、そうしたのである。
入社後は特にそうだった。年も性別もバラバラ、性格も雰囲気もなにもかもわからない、そんな中で自分は自分だと主張して生きていこうとする度胸はわたしにはなかった。
半年経ってやっと、短くしようと思えたものであった。
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今は入社3年目。特に転職や退職は考えていない。
だが、今わたしはセミロングである。
後頭部の高い位置でポニーテールができるようになったくらいである。
なぜかというと、髪の毛を伸ばすことを決めたからだ。
生まれて初めて自分の意思で髪の毛を伸ばすことにしたのだ。
なぜ、伸ばすことにしたのかという理由は、しばらくは誰にも明かすことはないだろう。
今までは、髪の毛を伸ばすことが節目となっていたわけだが、今回は髪の毛を切るときが節目になるのだ。それだけは確かである。
今までは、髪の毛を切ろうと美容室を予約した時、実際に美容室で髪の毛を短くしてもらった時にこそ心が躍ったものだが、今は伸びていく髪の毛を眺めることが、メンテナンスのために美容室にいくことが、わたしの心を躍らせる。
新しいわたしとの出会いだと言っても過言ではない。
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今までは、髪の毛の長い自分が少し好きではなかった。
周囲に見せている自分と、本当に在りたい自分とが解離しているような状態には違和感があるのだ。それに、長い髪の毛は似合わないのである。似合わないな、好きじゃないな、思いながら、その状態でいることは、なんとなく生活の質が下がっていくような気がする。
だが、今は似合わないとわかっていても、自分の意思で髪の毛を伸ばしているということに自分らしさがあると思っている。
今は髪の毛が長い自分も好きだと言える。
そうは言っても、今から髪の毛を切る未来を想像して心を躍らせているのも確かなのだけど。