私は小さい頃からショートカットである。くせ毛で広がりやすく髪の量も多い私には、ショートカットが一番楽だった。何より、自分にはショートカットが似合うと思っている。
そして私はボーイッシュでクールな服装が好きである。別に髪型に意図的に合わせてというわけでもないが、なんとなく落ち着くのである。

落ち着く自分から、世の中に合わせて、“モテ”を目指してみた

似合うから、落ち着くからといって、ロングヘアーにも女性らしいとされる服装にも全く憧れないわけではない。
世の中を見ていると、“女の子らしい”髪型はロングヘアーだし、可愛い服や綺麗めな格好をしている女性の方が好まれる。ショートが好きという男性もいるが、結局モテるのはロングである。
恋愛経験のない私は、髪を伸ばしてみようと決めた。クローゼットにも、今ある服とは全く逆の雰囲気のものを少しずつ増やしてみた。自分がどうであるかよりも世の中に合わせて、それまで敬遠していた“モテ”や“愛されガール”なるものを目指してみたのである。

今までと違う格好をすることはなんだか新鮮で、案外こういうふわふわしたスカートも似合うのではないかと我ながら思った。いつもはスニーカーだけど、ヒールも背筋が伸びていいじゃないかと思った。

少しずつ伸びてきた髪に櫛を通しながら、パーマをかけていないのに自然にカールする毛先が嬉しくなった。くせ毛ってロングの方が意外と扱いやすいのではないかと思った。自分の知らない自分を、自分で発見していくのはなんとも面白かった。

メイクも、いつもは赤リップを塗るところをピンク系の淡い色に変えてみた。
パキッとした鮮やかな色の方がそれだけでグッと引き締まるようで好きだったが、ほんのり色づく淡い色もなかなかいい気がした。はっきりした色の方が似合うと思っていたけれど、これもまたいいかもしれない。
滑り出しは上々、「私改造計画」は進んでいった。

終わりは衝動的に。バッサリ髪を切り「私改造計画」は幕を閉じる

初めのうちこそ楽しかったものの、徐々にストレスになってきた。
ヒールを履くと足は痛くなるし、あと1分だけど走れば間に合うはずだった電車にも乗れない。伸ばしてみると髪の量の多さがより気になり、ドライヤーで乾かすのに悪戦苦闘した。ナチュラルメイクにも使ったものと費やした時間のわりに見た目はあんまり変わらないなと虚無感すら感じるようになった。
何より、「自分でない何かを作り上げてからでないと外に出られない」ような抑圧感に疲れてしまった。

ある日、衝動的に髪を切りたくなり、空きのある美容院を探して予約した。我慢してやっと鎖骨につくほどまで伸ばした髪は、翌日にはバッサリとうなじの見える長さまで切り落とされた。
こうして「私改造計画」は幕を閉じる。

本屋のファッション誌売り場へ行くと、今日も“モテ”だの“愛され”だのという単語が目に付く。可愛くて女性らしくて、愛“され”る装いをして、異性の目を気にしていないといけないのだろうか。もっと楽しく自由であるのが「ファッション」ではないのだろうか。

誰かに女の子らしくないと言われようと、私は私の好きな格好をする。自分に何が似合うかは自分がよく知っているし、無駄なストレスを常に感じて生きていくことほど苦しいことはない。それに、自分の好みと真逆の格好をして人から好感をもたれたとしても嬉しくはない。
これからも私はショートカットとボーイッシュな服を愛し、クールに我が道を歩いていく。