お酒は楽しい。
沢山は飲めないがお酒は好きだ、何か頑張った後のビールの味が一番好きだ。しかし少し前まではお酒を嗜好目的ではなく、「薬物」のように快楽目的で飲んでいた。もちろんそれはすべて失敗だった。少し、その話をさせてほしい。
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社会人1年目の私はお酒があまり好きではなかった。味や、量を飲んでいなくても体調不良になることも理由の一つであるが、飲み会で泥酔して帰ってくる父の姿を見て「お酒に飲まれる大人にはなりたくはない」と思っていたからだ。
しかし社会に出ると、お酒を飲まなければいけない場面ばかりだった。昨今「アルコール・ハラスメント」の言葉が有名となり強いるなどの行為は禁止となったが、当時いた環境ではそれがまだ残っていた。
「社長が注いでくれたお酒なんだから、飲みなさい」
「先生のご機嫌を取るのだからお酒は飲まないとダメよ!」
「はい!喜んで!」
嫌われまいと、当時私はイケイケな素振りを見せたが、今も思い出すと机を叩きたくなる位腹が立つ。社会的な理由も重なり、お酒を楽しんで飲めなかった。
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しかし反面、「お酒が弱いから楽しめなくて、強かったらよかったのではないか?」と思うこともあった。ちょうどこの頃から自分の精神面が不安定になり、何かに依存したい欲求が強くなっていた。しかし自分にはすがるものが 何もなかった。そんな状態で冷蔵庫からお酒を取り出し、そのままグっと飲んだ時の気持ちよさを知ってしまった。
当時一人暮らし先に友人を招くことがあり、その際友人が手土産でウイスキーやカルーアミルクの大瓶などを持ってきてくれた。当初は アルコール度数が高いことから飲まずにそのままにしていたが、興味本位で一口飲んでみた。……いけるじゃん。
それから休み前日と休みの日はお酒を飲むようになった。最初は3%や小さい缶の梅酒を選んでいたが、次第にアルコール度数が高いものを選ぶようになっていた。覚えている限りだと、7~8%で500mlのお酒数本とワイン、チェイサーのドリンクを買っていた。とにかく気持ちよくなりたかった。
プルトップを開け缶のままグっと一口。アルコール度数が高いからか、薬品のような刺激を感じる。全身紅潮しふわっとした感覚になっていくが、それが気持ちいい。それを週2回ほどやり、仕事のストレスを快楽へ変えようとして いた。まさに「薬物」だった。
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こうなると家事などが全く手につかず、部屋は汚くなっていった。部屋だけでなく、自分の身なりも飲むたびに醜くなっていった。それでも快楽を 得られるなら、なんでもよかった。
ハイボールで決めて、せっかくだからと家の周辺を散歩した。当時の家は勤めていた会社の近くだった為、通勤帰りの同僚を見かけることが あった。この時も先輩社員たちを見かけた。優しい社員だったが自分の姿を見るや、眉間にしわを寄せて避けるように自分の目の前を通って行った。あの目は汚いものを見るようだった。
酔っていてもあの目をされたら動揺は隠せなかった。すぐ家に帰り、鏡で自分の姿を見た。酔っ払い、というより中毒者のようだった。ふらふら していたが、あの時の自分の姿は今もはっきりと思い出せる。
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しかしその後もお酒に快楽を求めていた。
お酒とは関係ないが仕事でトラブルを起こし、上から精神科受診を命じられ自分が明らかに「やばい」ことを認知した。それから自然とお酒で快楽を求める行動は無くなっていった……。
今も適度にお酒を飲んでいる。飲んでいる時は楽しいと思うし今後も飲むだろう、しかしあの快楽を再び得たいとは決して思わない。快楽を求めて依存の怖さをこのエッセイを通じて、伝わってほしいと願う。