髪型を変えたら、人生が変わる。
幻想だと分かっているのに、日常に退屈した時、行き詰った時、自分が嫌になった時…美容室に頼ってしまう。

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ここ最近で変身欲が沸いたのは5年前。TBSで放送された連続ドラマ「アンナチュラル」で主演だった石原さとみさんのショートヘアに一目惚れした。芸能人に憧れるのは至極当然のように感じるかもしれないが、私にとっては珍しい感情だった。売れているアイドルの化粧を真似たり、女優が使っているという美容グッズを購入したりする友達の姿を、どこか冷めた目で見ていた。別世界の人なんだから、なれるはずがない。

何より、これまでにも、衝動に駆られて髪を短く切った時が何度かあったが、仕上がりに満足した試しがなかった。極論、ショートヘアが似合わないのだ。経験上、十分に理解していた。だけど、感情を抑えきれなかった。ドラマが最終回を迎える頃、インターネット検索で手に入れた、彼女のヘアスタイルがよく分かる写真を持って美容室へ向かった。

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「何か、違う」。やっぱり、イメージ通りにはいかなかった。石原さとみさんにはなれなかった。なれなかったどころか、コンプレックスだった丸顔がより目立ってしまい、毎日、鏡に映る自分を見るのが嫌になった。髪の毛が伸びるまでの辛抱と言い聞かせ、ヘアセットに時間と労力をかけた。

ふと、考えた。どうして石原さとみさんになりたかったのか。かわいさと美しさを兼ね備えていて、色気がある。スタイルも抜群。演技力が認められ、幅広い役柄を演じている。何より、努力家で雑誌のインタビューにも多数出演している。憧れる要素はいくつもあった。ただ、何度も言うが別世界の人なのだから、なれるはずがないのだ。

当時の私は、社会人2年目だった。なりたかったライター職に就き、仕事に明け暮れる日々を送っていた。自分の軸や信念みたいなものはあったが、知識や経験不足から自信が持てず、人の意見に振り回されていた記憶がある。

ぶれない、かっこいい女性になりたかった。ドラマで石原さとみさんが演じた役は情熱があって、周囲に何を言われても自分が納得のいくまで行動し続ける女性に映り、まさに理想だった。石原さとみさん自身に通ずる要素もあるのだろうが、きっと私がなりたかったのは石原さとみさんではなく、石原さとみさんが演じる女性だった。

ヘアスタイルを真似したところで、憧れの人になれるわけではない。だけど、なりたい姿を見つけるだけで目標が定まって、努力の仕方が明確化する。今までより好きな自分に向かって、進める気がする。結局、自分は自分でしか変えられないのだから。

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あれから、ロングヘアになるまで髪を伸ばした私は、冒険しなくなった。2、3か月に1回の美容室。店を変えても、伝える要望は同じ。髪色はアッシュ系のグレー。カットは毛先を整える程度で構わないけど、セットに時間がかからない、ワンカールで動きが出る形。

今のヘアスタイルに満足しているわけではないけど、育児と仕事を両立する上で都合がよく、自分が違和感を覚えない、しっくりくる髪型にようやく出合えた。ある意味、理想の姿を見つけられた証拠なのかもしれない。

とはいえこの先、人生を変えたくなる時が再び訪れるだろう。迷っても大丈夫。また新しい、なりたい自分を探せばいい。