社会人になって丸3年が経った頃のことだ。私は突然、髪をピンクに染めた。

ほんのりピンクがかった茶色、などではない。「ピンク」として売られている色えんぴつを真っ白の紙に滑らせたときの色、と言えばほぼ相違ないくらいの、それはもう、すがすがしいほどのピンクだ。

私は20代の会社員である。学生時代から憧れていた第一志望の企業に念願叶って入社し、希望していた部署に配属してもらった。周りの人にも恵まれ、大好きな会社と大好きな同僚たちの役に立ちたくて、自分なりにがんばっていた新入社員時代。会社に行くのが楽しくて仕方がなかった。

順風満帆に思えたからこそ、遠くない未来、大好きな仕事が大きな苦しみへと変貌するとは、1ミリだって予想していなかった。

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2年目の冬頃だったろうか。ミスが目立ち、仕事で行き詰まることが増えた。自覚はもちろんしていたし、それは先輩の目にも余ったようで、頻繁に注意を受けた。

誰もが経験するようないわゆる「伸び悩み」だったのかもしれないが、原因のひとつについて、先輩がヒントをくれた。それは、「人にうまく頼れていない」ということだった。

私は昔から、真面目でしっかり者という印象を持たれることが多いようで、会社でも周りからそういった声掛けをされることが度々あった。でも実際はそうではなく、むしろ抜けているところが多いおっちょこちょいなタイプで、それをよく理解してくれている親しい人たちにたくさん助けられてきたのである。

しかしながら、会社という場所ではそんな自分を曝け出すことはなかなかできなかった。そして性に合わないしっかり者「風」のパフォーマンスをしていた結果、周りの人に相談したりするのが下手くそになってしまったのだ。

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それを見抜いた先輩の言葉は大きかった。
「もっと周りに頼っていいと思うよ。自分で全部できる必要はないし、そんなことは無理だから。その代わり、助けて〜って上手にアピールできるようになれるといいかもしれないね。」

こうして、私の「脱・しっかり者キャラ」作戦が始まったのである。髪をピンクにしたのもその一環なのだが、派手髪=非しっかり者、とは全く思っていない。そんなことを書いたら全国のおしゃれなしっかり者の方々に大迷惑だ。その人がどんな髪色にするかはファッションの好みや環境次第だし、そこに人柄との相関性はあまりないと思っている。

それでも私がピンクに染めることを選んだのは、それが「より自分らしい自分でいること」の背中を押してくれそうな気がしたからだ。それまでは髪色も服装も、なんとなく自分に求められているイメージに合わせていた。しかし今振り返ると、それは自分で自分に「お前はこうなんだ」と言っていただけだったのだと思う。

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実はずっとやってみたかったピンクヘア。本当に好きな色に染めてもらった髪で、初めて外を歩いたときの、あのなんとも言えない解放感は忘れられない。
「私が私に戻った」
大袈裟かもしれないけど、本当にそんな気がしたのだ。

髪色を変えて仕事ぶりが見違えるほど変わったかと言うと、残念ながら人生はそんなに甘くない。でも、少なくとも以前よりは見栄を張ったり、困っているのを隠したりせず、素直に助けてもらうことができるようになってきたと思う。

大好きな髪色にすることは、私にとっては自分が自分でいられるためのおまじないだ。今日も私はピンクの髪をかわいくアレンジして、足取り軽く、私らしく、進んでいく。