久しぶりに前髪を作ったのは2年前の3月だった。

小学校2年生から社会人5年目まで、伸びてきた前髪を何となく斜めに流していた。いつの間にか横や後ろの髪と同じくらいの長さになって、いわゆる「ワンレン」でほとんどの期間を過ごした。

中学3年生のとき、一瞬流行に乗って「重めぱっつん前髪」にしたことがある。しかし、思春期の私のおでこには大敵だった。あっという間に顔中にニキビが増殖した。「私はもう前髪を作らない」と決めて、数か月の前髪あり時代は終わった。

部活の本番、就職活動のとき。前髪なしのスタイルはとてもラクだった。ヘアピンを使わなくても、ヘアゴム一つでそれなりに髪はまとめられる。周りの友人たちが「今日の前髪、調子悪いわ~」と愚痴をこぼす隣で、私は「大変だね~それは面倒だね~」と他人事のように適当に相槌を打っていた。

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そんな私が20代後半に入って、もう一度前髪を作ろうと思ったのは、雑誌やSNSに載る女優さんの間で流行っていた「薄め前髪(シースルーバング)」を見たからだ。

薄めの前髪なら十数年間、前髪なしから変えるのにハードル低いかも。もう思春期のときほど皮脂腺は活発じゃないからニキビ、いや吹き出物はできないだろう。万が一違うと思っても、すぐ元の髪型に戻れるはず。

意を決して美容師さんに松本まりかさん、吉岡里帆さんの写真を見せて「こんな前髪にしてください」と頼んだ。

出来上がってみるとイメージ通りだった。前髪はあるけど、薄めだから違和感は少ない。おでこが薄っすら隠れている分、顔の面積が小さく感じられる。エラが張っていて顔が大きく見られがちだったので、コンプレックスが緩和された。

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久しぶりに前髪を作った私には、新たに「前髪だけ自分で切る」という習慣ができた。数週間もすれば前髪は目にかかるほど伸びてきて、暗く野暮ったい雰囲気になる。ここで、無印良品で購入した髪用カットはさみの登場だ。

自室の鏡の前に座り、顔の下にはごみ箱をセッティングする。Google検索で「前髪 自分で切る コツ」と調べて、はさみを前髪に対して縦にして構える。くしで整えながら前髪を3等分に分け、中央は短め、両端は長めに切っていく。
コツは毛先が目と眉の間まで、少し眉よりになるくらいに少しずつはさみを入れること。美容師さんからのアドバイスを忠実に再現する。ときどき鏡から離れて、顔全体を見ながら確認して、また少しずつ切るのを繰り返す。

こんな感じかな、と自分が納得したタイミングで終了。顔に付いた細かい髪の毛を、普段ファンデーションを塗るときに使う太い化粧筆でササっと払う。服に付いた髪の毛もパパっと払ってゴミ箱へ。たいがい休みの日の夕方に切るので、そのまま風呂に入るのがルーティンになった。

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たった数センチ切るだけだが、雰囲気は少し明るく若々しくなる。大きく髪型を変えたわけではないが、前髪を切る前と後では明らかに印象が違う。

数か月に一度は美容院で髪全体を整えてもらうので、1回につきカット5000円はかかる。自分で前髪を整えるだけなら、最初にはさみを買う必要はあるが、その後はタダでいつでも切れる。お金をかけずに印象を変えられるのは、すごく得をした気持ちになる。それが私にとってとても嬉しいことだった。

前髪を切るのは、だいたい月末の習慣になった。ちょうど外出する前に爪を整えたり、ムダ毛を剃ったりするのと同じようなものだ。前髪を切って顔周りの印象がすっきりすると「よし、来月もがんばろう」という気になる。前髪を整えようとすることが、私が元気かどうかのバロメーターになった。

今月も前髪が伸びてきたので、ちょうど切ったところだ。明日は人に会う予定がある。前髪を切るたびに、新たに気持ちがリセットされる。元気に明るい自分でいられるように、前髪を切る習慣を大切にしていきたい。