忘れられない事件がある。
ネットと現実は地続きで、画面の向こうにいる人はもしかしたらすごく近くにいるのかもしれないという事、自分の知らない人が自分の知らないところで自分を攻撃してくるかもしれないという事、自分の見せたくない姿も意図せず全世界に発信されてしまうかもしれない恐ろしさを私の骨の髄までしみこませてくれた事件だ。

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その事件が起きたことを知ったのは、当時私がよく利用していたSNSアカウントに急に知らない人達からの足跡が残っていたからだ。
もちろん、そのアカウントで繋がっていたのも顔も名前も知らない人達ではあったものの、そのアカウントは私が推しについて語っているアカウントで、繋がっているのも推しや好きなもの同士が一緒な人達ばかり。

もしかしたら顔と名前を知る以上に大事なことを共有している場所だったからこそ、急に全く知らない界隈の人達が侵入してきたように思えて、強烈な違和感があった。

なぜだろうと、その人達のアカウントを見て目を見張ったのを今でもよく覚えている。そこには、私の写真があったのだ。SNS上ではなく、現実を生きている私の姿が。それも、本当についさっきそこにいた私の姿が私の知らないうちに取られて、私の知らない場所で、全世界に発信されている。

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悪い夢であってほしいと思ったけれど、現実だった。なぜその人達が私のアカウントに辿り着いたかというと、呟いた人が携帯を背後から覗き込み、私が呟いているところを見てSNSアカウントを知り、私の写真とともに私のアカウント情報も呟いたらしい。

私はその呟いた人のことを全く知らず、呟かれる理由にも心当たりがなかったけれど、呟いた人の言い分では、「こいつのせいで不快な思いをした」らしく、写真をとってフォロワーに晒してやろうとしたのだろう。その写真と情報を見て、こんな顔と恰好をしたやつはどんな呟きをしているんだと覗きに来たフォロワーの存在で、私は晒されていることに気づいたのだった。

呟いた人の思惑通り、私はそれまで結びつかないと思っていたSNSアカウントとリアルの自分が急に結びついて、自分のコントロールできない場所で独り歩きを始めてしまったことに大いにショックを受けた。何より、見ると思わなかった場所で見る撮られると解っていない状態で撮られている自分の写真は物凄く不細工で、撮った人の悪意に染められていて、醜くて悲しいものだった。

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幸い、「ちょっとむかついたことがあった」くらいのテンションで仲間内で共有したかっただけのようで、直接攻撃をしてきたり、追加で何かを晒されるということはなく、複数のアカウントから通報をしたところ数日後にその呟きは消えていた(もしかしたら私が気付いたことにもあちら側は気づいていなかったかもしれない)けれど、晒されたアカウントはファンアカウントとしてはそこそこの規模だったので、もしも私をフォローしている人に気づかれていたら「中の人」はこんなやつなんだと拡散されていたかもしれない。

気づかずに人に対して嫌な思いをさせてしまった自分も悪いけれど、こんなに簡単にリアルとSNSが繋がって、画面の向こうから首を絞められることがあるとは思わなかった。それから、立ち居振る舞いにも気を付けるようになったのはもちろん、街中では誰かが背後にいない時や、覗き込んだりできない場所でしかSNSを触らないようになった。

自分がその場所いる時は写真や詳細を呟かず、必ずその場所を離れてから呟くようになった。位置情報が解らないようにこの事件が起きたのはもう4~5年前のこと。それでも、本当はこのことについて話すの未だだに怖いと感じてしまう。

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未だに自分が盗撮されて「こいつ(アカウント名)だよwww」と画像を晒される夢を時々見る。これを書いている時も、実はずっと怖くてあのツイートが残っていないか、記憶を頼りにエゴサーチしてしまった。このことについて話すことで、もしかしたら当時を知っている人に届いてしまうかもしれない。

そしてまた掘り返されてしまうかもしれない。SNSで簡単に人とつながれるように、SNSと現実も簡単につながって悪夢みたいなことが起きる。デジタルタトゥーという言葉があるけれど、ネットに一度でも発信したものが残り続けるように、ネットによって負った心の傷も、きっとずっと残り続けるのだろうと思う。

この傷からまた血が流れないように、今日も携帯の画面をそっと隠して私は呟く。