Instagramを開き右上の3本線をクリックする。
その中にあるアーカイブを見ることが、いつからかちょっとした日課になっている。
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「過去のこの日」という文言とともに表示される写真はつい先日のことのように感じるけれど、どれだって言葉通り間違いなく過去だ。去年や一昨年、なんなら4年前のものだったりする投稿を見ては月日の早さを実感する。
それと共に、変わらない自分の生活スタイルや趣味嗜好には感心すらしてしまう。だけど、この4年間であらゆることが変わった。きちんと振り返らないと忘れてしまうけど、嬉しかったり悲しかったり、やる気に満ちている期間や、何もやる気力が出ない期間。そういえばいろんなことがあったなと、ふと遠い目になる。
例えば4年前の今日はマレーシアのクアラルンプールにいた。旅行中に読んだ、『平成くん、さようなら』がとても良かったことを覚えている。それをきっかけに、その後も古市憲寿さんの書く小説は全て読んでいる。旅行そのものも好きだけど、普段とは違う空気の中で読む文章って沁み込み方が違うように感じるから大切にしている。
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同年の秋にはイタリアへ行った。ローマに到着したその日は夜で、あとは寝るだけだった。移動ですでに疲れきっていたため、近くのスーパーでワインでも買って部屋でサクッと飲んで寝ようと思っていた。そうやって適当に買った安価な赤ワインがあまりにも美味しくて感動した。コロッセオ、トレヴィの泉、スペイン広場。あらゆる観光名所に行ったのはもちろん楽しかったけれど、どれも安価な赤ワインの感動には勝らないのだから笑ってしまう。
ローマからフィレンツェへ移動する電車の中ではウラジミール・ナボコフの『ロリータ』を読んだ。読み終えて、伸びをして、遠くの景色を見る。車窓から見える異国の田舎の風景とロリータの世界観が絶妙にマッチして、不思議な気持ちになった。好きな作品が、またひとつ増えた。
そのあと向かったヴェネツィアでは「過去50年間の中でも最悪の高潮」と言われたときで、さまざまな観光地が浸水していた。もちろん大変なときだったと思う。だけどニュースで聞いていたよりも平気だった。現地の人たちもあっけらかんとしていて拍子抜けした。
その時、メディアに横行している盛られた情報ばかりを信じていてはいけないと改めて実感する。全てのリアルに触れるなんてできないけれど、可能な範囲で実体験を増やしていきたい。フェイクが多すぎるこの世の中で生きていくために必要なのは自分の経験値だけである。そんなことを思った年末だった。
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年も明け、次はベトナムあたりに旅行でもしようかと思っていた矢先、COVID-19が世の中を変えた。在宅勤務が増え、Zoomでの商談や会議は日常となった。オンライン飲み会は意外と飲みすぎてしまうことを知り、家にいる時間が増えたからと始めた家庭菜園では想像以上にハーブがよく育って困った挙句、放置して枯らした。
店で飲めないなら野外で飲もうと河川敷に集まって昼間から酒を飲んだ日もある。とても晴れた日、音楽を流しながら天国のような時間を過ごした。青い空、白い雲、あざやかな芝生の緑に大いに癒され、大いに飲み、大いに酔っぱらった。
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帰り道、気が付くと友人が倒れていた。頭から真っ赤な血を流して気絶している友人を見て一気に酔いが覚めた。その後救急車で運ばれて頭を数針縫った友人は今でも元気にしているし、去年結婚もした。
振り返り始めるとたくさんの物語があって、濃密すぎるそれらを全て書き記すことはできない。だけどこうやってたまに思い出に浸る日があっても良いなと休日の夕方、マクドナルドの端っこに座りながら考える。
目の前ではしゃいでいる部活帰りの学生たちはナゲットを食べ、ジュースを飲み、『チェンソーマン』を読んだりしている。いつか彼らも今日のことを思い出すのだろうか。「過去のこの日」を忘れないため、今日も写真を撮ってはInstagramに投稿をしつつ、そんなことを思う。