私はずっとフランスに行きたかった。
本当だったら、大学2年の夏休みに学校の制度を活用して短期留学する予定だったのだ。それがにっくきコロナによって中止になり、海の藻屑と消えてしまった。残念なことこの上ない。

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私の夢が叶ったのは当初の予定より2年半も後のこと、大学卒業前の春休みのことだ。

就職したら、しばらくはヨーロッパ旅行に行けるようなまとまった休みは取れない可能性が高い。だとしたら、大学卒業前の今がチャンス!

大学4年の12月のこと、私は某旅行会社のフランス旅行ツアー説明会にどきどきしながら申し込んだ。当日他に参加していたのは、海外旅行に行き慣れている感じの年上の人たちばかり。右も左も分からずに、「こんな質問でホントすみません…」と前置きしてから分からないことを社員さんに聞きまくる私の姿は、誰がどう見ていても浮いていたに違いない。

正直不安でしかないけれど、このチャンスを逃したら絶対に後悔する!説明会後、私は2月後半に添乗員つきのツアーでフランスへ行くプランに申し込んだ。今までの人生で一番大きな買い物だったので、入金する時には文字通り指が震えた。

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ツアーだから全部旅行会社に任せておけば良いものだとばかり思っていたのだが、全然そんなことはなかった。海外保険やスマホの設定などの細々とした手続きは、全部自分でやらなければいけなかったのだ。

「これとこれは旅行会社に任せられるけれど、あれとあれは自分で準備するもの」という説明も、旅行会社からは本当にさらっとしかされなかったので、何を準備するべきなのかも手探り状態。慣れている人からしたら、おそらくそれが当たり前なんだろうけど、海外旅行には10年前に家族と行ったきりの私には正直ものすごく不安だった。

一人で申し込んだので、同行者と相談し合って不安を軽減することもできない。これは必要ですか、あれはどうなんですか。旅行会社に電話しては、とにかく片っ端から質問しまくった。

「そのうちこの会社のブラックリストに載るに違いない…!」と内心恐れおののいていた。
そんなこんなで、おっかなびっくり始まったフランス旅行。結論から言おう、ものすごく楽しかった。

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この旅行から学んだことは、色々ある。

まずは、何か新しいこと、慣れないことをする際には、放置しないで少しでも早く取り掛かる姿勢がものすごく大切だということだ。最初に、全体にざっと目を配り、自分一人でも何とかなりそうなタスクはさっさと片づける。そして、一人ではどうやっても解決できそうにないタスクがあったら、その時は恥もプライドも捨てて周りを頼るべきである。

私の場合、海外保険の申請書を「何か難しそう、面倒そう…」とギリギリまで放置し続け、締切直前に見てみたらどうしても分からない箇所があったため、慌てて旅行会社に電話するという失態を犯している。申請書が届いた時点ですぐにきちんと確認していれば、締切直前にあそこまで慌てることはなかったのである。この経験をきっかけに、職場でも「仕事をもらったらすぐ確認→分からないことを洗い出して解決策を考える→考えた上でどうしても分からなかったら周りに聞く」の流れを意識している。

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次に、「不安でもとりあえずチャレンジ!」精神の重要性だ。今回のツアー旅行では日程の後半に自由時間があったのだが、出発前は「パリのメトロとか絶対治安悪い!絶対一人で乗りたくない!」と心から思っていた。しかし、いざフランスに着き、ツアーメンバーで色々な場所を巡ってみると「交通機関に乗ればもっと沢山楽しい場所に行けるんだ」という当たり前すぎることに気がついた。

それで、勇気を出して自由時間に一人でパリのメトロに乗ってみたところ、驚くほど呆気なく目的のオルセー美術館に到着することができ、帰りもあっさりとホテルに戻れたのである。「え、日本の電車みたいに複雑な乗り換えもないし、思ってたほど難しくなかったわ…」と一人拍子抜けする私だった。 

それからは、ちょっと不安でも「とりあえず行こう!」の精神で物事に取り掛かるようになった気がする。例えば気になっている著名人のトークイベント、例えば働いている業界内での合同勉強会。知っている人が全くいない状態でお一人様参加しても、その場で友達ができたりして意外と何とかなるもんである。

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そんなこんなで、私はフランス旅行という夢から沢山のものを与えてもらい、そしてそれまでの自分をちょっぴり変えてもらったのだった。 

人生最大の買い物だったし、無事にフランス行きの飛行機に乗るまでは不安でしかなかった。でも、その不安も吹き飛ぶくらい、本当に楽しい旅行だった。もし時間を巻き戻せるのであれば、私は再び同じツアー説明会に申し込み、どきどきしながら飛行機に乗るのだろう。