2021年3月、しがないOLとして働き始め、もうすぐ入社7年目を迎える私は都会で満員電車に揺られていた。「帰宅ラッシュ最悪」と心の中で悪態をついたところで、ふと目の前に立つ女子高生のスマホ画面が目に入った。
今日が卒業式だったようで、画面をスクロールする度に、クラスメイトや先生、部活のメンバー達と一緒に写った写真や動画がひたすら表示され続けた。彼女はひとしきり自分の画像フォルダを眺めた後、SNSアプリを起動し、友人達の投稿に『いいね』をつけまくった。
ここまでの一連の動作をぼうっと見つめた後、私は急いで視線を逸らした。自身の冴えない学生生活を思い出し、なんとも言えない気持ちになってしまったのだ。

初対面で名前より先に誕生日聞いてきた彼女が、後に親友に

2005年4月、桜が綺麗に咲き誇り、雲ひとつない晴天だったその日、私は隣の県の私立中学に入学した。もう昔のことではあるが、教室でのあの出会いは今でも忘れられない。
入学式後、教室に到着し、割り当てられた席に座りあたりを見まわしていた時、急に声を掛けられた。
「ねえ、誕生日いつ?私、6月生まれなんやけど、なんでこんな席後ろなんやろ!?」
初対面で名前より先に誕生日聞くって何よと面喰らいつつ、「名字の順やないの。私、名字後ろの方やし」と答えると、「え!普通、席順は誕生日で決まるよ!?」と彼女は目を見開いて驚いた。
この唐突な質問をしてきた彼女こそ、後に私の親友となるヤツだ。(ここでは『こっちゃん』と呼ばせてもらう。)

どうも会話は噛み合わなかったはずなのに、私達は入学初日から仲良くなった。偶然にも同じ部活に入部したり、好きな漫画やアニメが同じで大いに盛り上がりオタク道を突っ走ったり、とにかく会えば話が尽きなかった。人付き合いが下手で勉強も大して出来なかった私だったが、彼女と一緒に居るのは心地よかった。

よく笑い、明るい彼女の持つ意外な一面に、ただ圧倒されてしまった

お互い頻繁に連絡を取るタイプではなかったものの、進学・就職で住む場所が離れても友人関係は不思議と続き、現在に至るまで15年程の付き合いになる。
そういえば社会人になってからも、彼女は唐突な発言で私を驚かせた。

2018年の秋、『好きなドラマのロケ地を巡る旅』と称して、こっちゃんと2泊3日の旅をした。
確か2日目の夜だったと思う。宿泊先近くのこじんまりした居酒屋で夕食を取っていると、酔いがまわったのだろうか、彼女はぽつぽつと近況を話し始めた。
浪人までして大学へ行き勉強し、夢だった仕事に就いたが、どうも辛いのだということ。車で職場から帰宅する時、「このままガードレールに突っ込んだら死ねるのかな」という考えが頭をよぎることなど。
私は上手く声を掛けられず、彼女が普段私にしてくれるように一生懸命話を聞いたり、背中をさすったりした。
けれど、死にたいと思う気持ちまでは理解してあげられなくて、私の前ではよく笑い、明るい彼女の持つ意外な一面にただ圧倒されてしまった。

あんたが居てくれるだけで、私も生きていける気がする

さて、2021年現在、こっちゃんは死を考えたものの、憧れだった仕事に今も軽く携わりつつ、地元で生活している。
昔から彼女は、怒られてばかりの自分を卑下し、私のことは「きちんとしていて凄い」と褒めることがあるが、そんなことはない。怒られても辛くても何度も憧れの仕事に挑戦し、時には口下手な私の話を真剣に聞いてくれる、その姿勢こそ私の憧れだ。
生きるのに一生懸命な姿にきっと、無気力でどこか人生を諦めていた私は惹かれたのだ。

実は私も最近、死にたいと思ったことがある。仕事も恋愛も何もかも一気に上手くいかなくなって、それでふと。
こっちゃん、私あの時少しでもあんたの力になれた?
どうやって辛い夜を乗り越えた?
「隣に居てくれるだけでありがたい」と言ってくれてありがとう。大げさかもしれないけど、あんたが居てくれるだけで、私も生きていける気がする。自分を見つめて、今度こそ立ち上がれる気がする。
お互い、生きていこう。

季節はあっという間に過ぎて、私の住む関東では桜が散り始めている。
あの卒業式帰りの女子高生を見た時、何事にも挑戦できず過ぎ去った青春時代を悔やんだが、今でも親友と呼べるこっちゃんと出会えたのだから、想い出の写真が無くてもSNSで呟くことが無くても、悪くない学生生活だったのかな、と思い始めた今日この頃だ。