私はお酒が好きだ。カクテルの美しい見た目やウイスキーのスモーキーな香りはもちろん、お酒が許してくれる、普段とは違う酔った自分のことも。大学生でお酒を覚えた私は、いろんな男の人と飲みに行き、どうやら少しかわいい顔と仕草を作ることは得意分野らしいと気付いた。

賑やかな店内、テーブルの下でこっそり手を重ねたり、ほの暗いバーの灯りのもとで見つめたり。もちろん同性と仲良くなるためにもお酒の席は有効で、人との距離を縮めるために、アルコールは私の強い味方になってくれた。

だが、やはり世の中とは、そう上手くはできていないようだ。
一目惚れだった。バイト先の先輩に恋をした。平均より少し高い身長で、ギターを弾いて歌を歌う。人生で、一目惚れをしたのは後にも先にも彼だけだった。何が上手くいかないって、先輩はお酒を飲めない人だった。

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飲みに行きませんか、が男性の誘い文句だった私にとって、飲めない彼はどう誘えばいいかわからなかった。バイト仲間の飲み会にも来てくれない。そもそもシフトが被らず、会える機会がない。どう仲良くなれって言うんだ。

転機はバイトの追いコン。周囲の人に先輩のことが好きだと言いまくっていたおかげで、隣の席に座らせてくれた。たった2時間。先輩の顔をまともに見れない私は、それでも話がしたいとアルコールを胃に注いだ。先輩、あの。

2件目のカラオケからの帰り道、再び2人の時間が訪れた。列の最後尾、日付が少し変わった頃。先輩、あの、今度どこか出かけませんか。おう、どこ行きたい?と笑う彼の笑顔は今までで1番意地悪く、それでいてかっこよく輝いてみえた。

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回を重ねるごとに、距離は縮まっていると確信していた。あなたが飲まないと言ったから、お酒をやめた。あなたが好きだと言ったから、煙草を吸う女のフリをした。あなたが好きな音楽を聴いて、あなたの観るテレビを観た。同じ話をしたかった。好きだと言って欲しかった。だって今まで、それで上手くいっていたから。夜遊びもやめた。あなたしか見えない。好きだと言って。

そうして好きを加速させすぎた私は、終電を逃したある日、泊めてと頼んで彼の部屋へ行った。行ってしまった。気付いたら布団の中。大丈夫、一線は越えてない。換気扇の下で煙草を吸う先輩。しかしそれよりも、直前までしたのにキスだけをしてくれなかった理由が知りたかった。

どうして。キスってそんなに価値ありますか?ううん、ありますよね。わかってます。じゃあどうしてしてくれないんですか。わかってます。ああ私、先輩にとって、何者にもなれていなかったんですね。どこにでもいる女Aでした。いや、BとかEとか、Zかもしれませんね。

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男の人が好きじゃない女に手を出すのって、アルコールのせいだと思ってました。だから先輩は大丈夫だって。そういう遊び方してきた私が悪いのでしょう。

それでも私は、彼を忘れることなどできなかった。泣きながら帰った朝を思い出しては、でも好きだからとあの夜を忘れようとした。アルコールは涙を流す手伝いまでしてくれる。毎日泣きながら飲んだ。それでも先輩は頭から消えてくれない。辛いことは時間が解決するという。あれから2年が経った今、もう涙は出ないけれど、先輩はまだ心に棲みついている。

きっと、私の恋愛はお酒と切り離すことなどできないのだ。飲んで、酔って、少し近づいて。そうして上手くやってきた。こうしてこれからもやっていく。だけどあの日からは、先輩がお酒を飲める人だったらとどこかで考えながら。そんなこと関係なくたって、今となってはどうでもいい。全部そのせいにさせて欲しい。

先輩が教えてくれたバンドが歌う。いつか、あなたじゃない他の誰かを運命の人だと思うことにすると。でも、私の一番はあなたの他にはいない。私の2番目に好きな人が、お酒を飲まない人だったら、どんな顔して運命と呼べばいいんですか。先輩じゃだめなんでしょうか。