「お酒飲まないんですか?」と聞かれることがよくある。
毎回思うんだけど、この質問、どう答えるのが正解なんだろう?

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あえて硬い言い方をするけど、この機に主張したい。
マイノリティには、常に説明責任がつきまとうのだ。

「結婚しないんですか?」と聞かれることは多々あっても、「どうして結婚したんですか?」と聞かれる人は少ない。
「同性を好きになるってどんな感じ?」と聞かれることはあるけど、「異性を好きになるってどういう感情なの?」と聞かれることはほとんどない。

聞く方に悪意がないことはわかっているし、私だって自分と違う要素を持った人には同様の質問をしてしまっていると思う。

でも、だからこそ、聞かれると返答に迷うのだ。

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実際のところ、私はお酒を「時々飲む」。でも、常に飲みたくなるわけではない。
「飲もうかな」と気が向く時と、「今日はいいや」と思う時が混在しているのだ。
これが、なかなか他人に理解してもらえない。

丁寧に説明をすると、私にとって「お酒」は「焼肉」に近い存在なのだ。
焼肉は好きだけど、毎日食べたいというほどではない。
たまに食べるからおいしいのであって、あっさりしたものが食べたい気分の時や、胃もたれがしそうな体調の時には魅力的に思えなくなる。

「焼肉は大好きだから毎日でも食べたい」という人には通じないたとえなので、その場合は「ものすごく甘いケーキ」や「激辛カレー」に置き換えてもいい。
特別な時間を楽しむ、エンターテインメント的な側面があるものだから、日常的に摂取したいとは思わないのだ。

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ただ、飲み会の席などで「お酒飲まないんですか?」と聞かれても、「私にとってお酒って焼肉なんですよ」と答えることはない。言われた方からすると意味不明だからだ。

かと言って、単純に「今日は飲まないです」と答えたら、「どうして?体調悪い?」「せっかくの集まりなんだから飲もうよ」などと追い打ちをかけられる。ひどい時には、セクハラまがいの質問をされることもある。
初対面で二度と会わない相手なら「下戸なんです」と言うこともできるが、知り合いだとそうもいかない。お酒を飲みたい日もあるからだ。

シンプルに「お酒を飲みたい日もあれば、飲みたくない日もある」というだけなのに、なぜか伝えることが難しい。
みんな、「世の中にはお酒が大好きな人か、お酒を飲めない人しか存在しない」とでも思っているんだろうか。

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先日、両親ときょうだいと私で家族旅行をした際、宿の夕食でお酒を頼まなかったのは私だけだった。
たまたま移動で疲れていたので飲まなかったのだけど、私の「烏龍茶で」という言葉を聞いたスタッフさんは一瞬「えっ?」という顔をした。それからややあって、「先にごはんをお持ちしましょうか…?」と遠慮がちに尋ねられた。

ごはんは後で大丈夫です、と丁重に断ってから、私は考えてしまった。
一瞬とはいえ、スタッフの方を戸惑わせてしまうほど私はお酒を飲みそうな外見をしているのだろうか。

それとも、お酒の代わりにごはんを出さなきゃ、と焦らせるほど異例の客だったのだろうか。ちなみにその日出た夕食は結構薄味で、酒の肴にも、ごはんのおかずにも向いているとは思えなかった。
謎は深まるばかりである。

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こんな私でも、お酒を楽しむ日が年に数回訪れる。
飲むのはたいてい梅酒で、水や炭酸で割ることなく、ロックで香りを楽しみながらいただく。
アルコールに弱いわけではないので、二杯、三杯と立て続けに飲むこともある。

私がお酒を飲む時は、世界には私と、お酒と、お酒に合う食べものしか存在しなくなる。
周囲の音や話し声もつるつると耳を滑って、私はただ「美味しいなあ…」と自分の世界に浸っていってしまう。

こんなに魅惑的で危険な飲み物を、毎日のように勧めてくる人たちの気が知れない、とその度に思う。