「暫くお酒なんて飲まない!私禁酒する!」
なんて戯言を、私は飲み会のたびに口にしている気がする。

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というのもお酒が決して強くない体質の私はほぼ毎回、駅のトイレで吐いて、歩道の側溝に吐いて、迎えに来てくれた車の中で吐きそうになって。粗相を免れたとしても、身体の節々で生じる鈍い痛みや、頭痛に暫く苦しめられることとなる。
そしてお酒を飲んだ後の身体の不調に耐えながらいつも思う。もう二度とお酒なんて飲むか!

お酒の飲みすぎはもちろん健康に悪いし、居酒屋で飲むといつも想定外に高くついちゃう。お酒の力のせいで、たまーに言わなくても良いことを言っちゃったり、言われちゃったりもして。そしてそのことを1週間経っても、1カ月経っても忘れられないときもある。
お酒が前提の人間関係はない方が人生豊かになるって考えも、昼に会えない友達は要らないって考えも、なるほどな。そうかもな。と思えるくらいには賛同できる。
それなのになぜ、私はお酒が辞められないのか。

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先日、大学時代の後輩と飲みに行く機会があった。私が卒業してから一度も会っていなかっただけでなく、連絡をとったのもじつに3年ぶり。だから待ち合わせ場所に来た彼が、記憶の中の彼と同じで私はこっそり安心した。

大学時代の彼は、しっかり者のいじられキャラ。その性格故に先輩から後輩まで多くの人に慕われていたように思う。私もそんな彼を気に入っていた先輩の一人で、電車の時間が一緒になると、左側のドアの前に並んで立って、くだらない愚痴から真面目な相談まで、よく聞いてもらっていた。

だからお酒を飲み始めて少しだけ驚いた。けれどすぐに、にまにました。

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若者で賑わう大衆居酒屋にありがちなチンチロ――偶数が出たらアルコールが1杯半額、奇数が出たらメガジョッキのサイズに強制変更させられるゲーム――を調子に乗って、意地になって何度も挑戦する彼。3リットル近いお酒を飲む羽目になって、聞いたことないくらい大きな声で笑う彼。

「俺やっぱり、あいつのこと好きなんすよ~~~!」
お酒で顔を赤くして、片想いをしている相手のことを大声で話し始める彼。

この瞬間が、私がお酒を辞めきれない理由である。
お酒が弱そうなイメージなのに、実は意外と飲める友人。ちょっとやそっとじゃ顔色もテンションも変わらない幼馴染。いつも通り自分の限界をしっかり把握して、上手にお酒と付き合う彼女。素面のときよりほんのちょっぴりだけ調子に乗る彼。普段しっかり者なのに、大声で好きな人の話をし始める後輩。

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お酒を飲まないと分からないその人たちの特性に、触れられるのが嬉しくて仕方がない。

こんな風に酔っぱらうんだ。こんな距離の詰め方をするんだ。こんな風に笑うんだ。お酒は何を飲むんだ。この人飲んでも変わらないんだ。

ギャップがあったら内緒話しをしてくれたみたいで胸がくすぐったいし、ギャップが無くてもそれはそれで何だか可愛いらしい。
どっちにしろ、誰にも言えない恥ずかしい秘密をうっかり聞いてしまったような、そんな高揚感と特別感を、私は酔っ払いに感じてしまう。

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アルコールよりもおつまみの方がおいしくて好きだし、生涯お酒が飲めないよりも焼肉ができなくなったほうが困る。そんな私のお酒大好き度は特段高くはないけれど、まだまだお酒は辞められそうにない。
だってお酒を一緒に飲んだときに見せてもらえるその人ならではの特性は、人生で一番嬉しかったことを教えてもらうのと、同じくらい愛おしいもののような気がしてしまうから。