今年の秋は、食欲の秋にしようともくろんでいる。といっても、「絶対これを食べる」「必ずあのカフェへ行く」という方向性ではない。

まず9月、チョコレート検定。
次に10月、レモン検定。
最後に11月、発酵検定。
そう、私は、食べ物に関する資格試験をとにかく受けまくろうと企んでいるのだ。

え、「食品メーカー勤務なんですか?」って?残念ながら、はずれ。勉強が続けられそうな、面白そうな資格試験を片っ端から探したら、上記のラインナップになっただけである。

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元々大学でフランス語を専攻していて、今年の夏に仏検(フランス語検定)を受検しようとしていた。しかし、新社会人として仕事を覚えながら勉強する生活が予想以上にきつくて断念。最近になって、やっと「仕事にも慣れてきたし、何か勉強して検定受けようかなー」とポジティブに考えられるようになった。

とはいえ、フランス語とは当分は距離を置きたい。「面白い検定」とググって、見つけたまとめサイトで出会ったのが、チョコレート検定だったのだ。「あ、何かこれ面白そうかも」と直感的に感じ、受検することに決めた。

世界各国の有名なチョコレートブランド、カカオ豆がチョコレートになるまでの過程、世界と日本におけるチョコレートの歴史。22年間何気なく口にしていた茶色い小さなお菓子には、初めて知る面白いバックグラウンドが沢山秘められていた。元々食べるのが好きだったこともあり、私はぐいぐい惹き込まれたのである。

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「食べ物の検定、他にも受けようかなあ」。そう思い始めるのに、大して時間はかからず。ネットで探してみると、出てくる出てくる、チーズ、パン、紅茶、漢方…。世の中には、飲食物に関わる資格試験が予想以上に沢山存在することが分かった。「チョコ以外にもこんなに沢山面白そうな検定があるのか!もっと受けてみたい!」。既に勉強を始めているチョコレート検定の受検日と擦り合わせ、「チョコ→レモン→発酵」という「食欲の秋」のスケジュールを組んだ。

前述の通り、私は食品メーカー等で働いているわけではないので、これらの検定を受けたところで特に仕事で役に立つこともない。ただ、「何か面白そうじゃん」というノリだけで受検手続きし、勉強をしている。人によっては、「あんたがやってることって、お金と時間のムダじゃん」と失笑するかもしれないけれど、そんなん知るか。馬耳東風、馬の耳に念仏、それこそ流しそうめんのように右から左にするすると流すだけだ。

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生活必需品に入らないもの、無くても生命活動を物理的な意味で持続させられるものなんて、この世界にはいくらでも溢れている。でも私はそれらに救われている。毎朝ワンプッシュで1日のスイッチを入れてくれる香水、子どもの頃から10年以上読み続けている小説、画面の中で唯一無二のオーラを振りまく推しのアイドル、カンパイの声と共に友人とグラスを重ねる華金の夜。そして、実用性なんて気にしないで、純粋な好奇心から勉強したいと思える対象。

それら一つ一つは、物理的な意味では私の血にも肉にもならないけれど、でも、心を豊かにしてくれるものとしては確実に必需品だ。

だから、今日も私は推しの曲が流れる窓辺で香水を一吹きし、通勤用バッグに大好きな本を入れて出勤して、友人たちと会える退勤後を楽しみにしながら1日仕事を頑張るのだ。

最近、通勤中に読んでいるのはもっぱらチョコレート検定のテキスト。フォンダンショコラやチョコレートタルトの写真を眺めていると、あれもこれもと全部食べたくなってきてしまう。11月の発酵検定を受け終わる頃には、きっと頭の中に食べてみたい食べ物が溢れているだろう。
王道とはちょっと違うかもしれないけれど、これはこれで楽しい「食欲の秋」かもしれない。