そこは、戦場だった。ひとつ判断を間違えばひとつ宝物を失う。
そんな戦場で私は思いっきり息を吸い、こう心の中で叫んだ。
「あ~~!!!生きててよかった!!!」
私はビックサイトの真ん中で恍惚とした笑みを浮かべた。

そう私はオタクである。そして腐女子である。
神が与えもうた萌えを啜って生きている。
これは小娘が同人誌即売会という戦場で戦い、もぎ取り、その後創作者になるまでの実録である。

もっと作品を愛したい。そのためにブログを開設した

時は高校2年生の時まで遡る。
私は何も知らない小娘だった。日々恋人のことを考えて暮らしていた。
そんななか、恋人と同列にくい込むアツい漫画に出会うことになる。気弱な少年が仲間と共にロードバイクで日本一を目指すその漫画は、私の心臓をぎゅっと握っては押しつぶさんばかりだった。

好きだ。

そう思った次の日には、少ない小遣いで漫画を全巻買い、アニメを見、Twitterを開設した。

そこからの毎日はなにか雲の上にいるようで、好きな漫画の同志を集い、リプを送りあったり通話をしたり、好きなだけ好きなことをした。
楽しかった。
みんなが私の考察を受け入れてくれることが嬉しかった。私は作品のみならずコミュニティも好きになった。

しかし、一つの作品が私の目を覚まさせる。
それは好きな漫画のキャラクター達が山へ星を見に行くという二次創作だった。たったそれだけだった。それだけなのにどうしてだろう、こんなに涙が出るのは。

私は目が覚めた。私は作品を愛してるはずだ。
コミュニティを否定する訳ではないが、コミュニティは作品とは関係ない。
私はもっと作品を愛したい。
私は自身の考察を深めるためにブログを開設した。

初めて1人で県外へ。親に正気か? と言われても行くしかなかった

そのブログはニッチなファンがつき、知る人ぞ知るブログとなった。
そして私はあの二次創作を描かれた作家のTwitterに張り付いていた。次の作品は?次の作品は?そんなとき、作品の中の2人が海で心中をする話が投稿された。
全く心得のない人は江戸時代か?と思うだろう。
しかしオタクだった私は余りの感動に脳から震えた。そしてその作者はこんなことを言い出す。
「同人誌即売会に出ます」
行くしかなかった。それ以外の選択肢はなかった。

小娘は新幹線乗り場で文字通り震えていた。1人で県外に行くなんて初めてだった。
親に正気か? と言われた。正気ではないが、行かなきゃ後悔するんだと言った。
その日は学校はやってない休日だったはず。でも私には本番という文字の方が似合ってみえた。

新幹線に乗る。初めての戦場へ赴く。
私は宝物を手に入れれるだろうか。いや、絶対手に入れるんだ。
私の幸せのために。

大好きな創作者様に思いを伝えられた。心は満たされていた

何度も道を聞きながらなんとか会場に着いた。同人誌即売会はフロアマップのようなものを買う。それが参加費ということになっている。
よろよろと疲れて、なんとか作者様の売り場に着いた。その頃はもう残り5冊になっていた。

「1冊ください」
その声は震えていたと思う。
「ありがとうございます」
作者様は金銭の授受をする。
「あ、あの好きなんですとっても」
主語が抜けてる。
作者さんはふふっと笑って、
「そんな緊張なさらないでください。いつも励みになってます」
「そんな!励みになれてるかな……これからも応援してます!すっごくすっごく応援してます!」

恥ずかしかった。でも清々しかった。
大好きな創作者様に思いを伝えられた。なにより作品を手に入れた。
嬉しい。楽しい。大好き!
心は満たされていた。

私は貪るように帰りの新幹線の中で読んだ。
泣いた。
そして決心した。私も創作者になろう。私もこの作品を愛するひとりになろう。
そのころには私は高校三年生になっていた。

私はもろもろを済ませ、地獄も見て、なんとか同人誌即売会の売り手側にたった。
みんな仕事や学校がない休日にこの祭典にくる。
でもこれはただの休日ではない。各々がそれぞれの思いで挑む、戦場という名の本番だ。
嬉しい。悲しい。買えた。買えなかった。売れた。売れなかった。
色んな思いがある。
でもそんな思い全てが愛おしい。
その思いは一重に作品への愛の深さを表しているのだから。