私は、私のずる賢さが通用する今の仕事が好きだ。
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私はとある会社でシステム運用の業務に携わっている。小さな部署なので、役員や社長と同じフロアで仕事をしている。また、システムは全社的に関与するものが多いので、ほとんどすべての部署と関わりがある。そうすると、いろいろな内部情報が手に入る。
「あの人の趣味はキャンプだ」「あの人は愛猫家だ」「あの人はせっかちだ」などなど。だから、割と簡単に懐に入り込めるし、仕事のやり方もすんなりと人によって合わせることができる。そうするとどんないいことがあるだろうか。
給料の発生しない飲み会に行かずとも、相手を知ることができる。人間、自分の好きなことについて聞かれて嫌な顔をする人はいないだろう。何の努力もしなくても「あの子はいい子だ」と思わせることができる。また、せっかちだという前情報がある人からの依頼は、急ぎめにタスクを片付ける。
ITへ苦手意識があるという前情報がある人からの依頼は、とにかく丁寧に片づけて説明する。何の努力もしなくても「あの子は仕事ができる」と思わせることができる。ちなみに私は勉強が得意なほうではない。記憶力も悪いし、そんな私が「仕事ができる」なんて有り得ない。"できる風" を演出するのが通用する部署に運よく配属されただけだ。そして "できる風" が上手いだけだ。
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そんな私の "できる風" が、先日大きな力を発揮した。社内規定には存在しないテレワーク許可が下りたのだ。その道のりを紹介しよう。
私の夫はいわゆる転勤族である。そして自己評価が過度に低い。それゆえ、転勤が決まっても自分なんかでは養っていけないと言い切るのだ。しかし、結婚して1年足らずの私たちにとって "単身赴任" は避けたい選択肢。私が勤める会社は古い考えが浸透していて、反テレワーク派が主流なのだ。自宅ではできない部署があるので、全社的にテレワークは禁止。目のつかないところではサボるのでテレワークは禁止。そんな感じだ。
しかし、転職はめんどくさい。今の職場に不満はないし、近く産休育休も取得したいので、転職してしまうとそれが先延ばしになってしまう。私は、「この会社にテレワーク許可をもらおう」と決めた。まずは部内から。上長との面談で「夫が転勤族で、でもこの会社を続けたくて…」と相談。私の上司はやりたい仕事をやらせる主義なので、「この仕事が好きなんです!」とアプローチした。
隣の席の同僚はとにかくお喋り。その人に言えば、良くも悪くもあっという間に部内共有されてしまう。そして、割と意識高い系なので「夫の転勤きっかけで私のキャリアが途絶えるのは避けたいんです!」とアプローチ。激しく共感された。
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ちなみに自動的に部内共有完了。省力化も実現した。それから、総務課長。あの人は融通が利かない。想像通り、規定にないからだめ、と言われたが、立場が立場なので一応相談しておいた。あと、人事。任意の人事面談に出席し、「第一志望の会社だったから、退職したくない」とアプローチ。ちなみに今の人事は私を採用した人たち。
素晴らしいことに、フロアには役員がいるので、早朝出勤のとある役員に合わせて出勤し、相談を持ち掛けた。その人は前職を定年まで続けたのちにうちに来たらしい。「私も定年まで頑張るのが目標なんです!」とアプローチ。
その他にも、隙あらば "テレワーク" 。忘れられては困るので、一度相談した人にはたまに進捗確認。数年で仕事できるキャラを確立した私は、基本的に話を聞いてもらえた。いなくなっては困る、と言われた。
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そして先日。総務関連の役員に上司と呼び出された。「ご主人が転勤されるときには、テレワークを許可します」心の中で歓喜の雄たけびを上げた。私の地道なずる賢さが報われた瞬間だった。ちょっとした条件は提示されたが、何ら問題はなかった。ただ、これにより私は今まで以上に業務に励むことになったのも事実。
わがままを聞いていただいた訳だから、しばらく退職できないのも事実。まあ、でもいいだろう。これからもコツコツ計算して、何かあった時には、自分の力で "私が" 働きやすい会社にしていけば。あ、ちなみに社長には個人的に深くお礼を伝えておいた。