お酒は飲まないけど居酒屋は大好きな人って、どのくらいいるんだろうか?
私には飲酒の習慣がない。元々両親が飲まない人なので、我が家には昔からお酒というものがほとんど存在せず、従って子どもの私に「あれ飲んでみたい」という憧れを抱かせることもなかった。成人した今でも、周りの友人たちが「とりあえず生で」と居酒屋で注文する中、ひとりソフドリのメニューを広げ、トマトジュースとジンジャーエールどっちにしようなんて頭の中の天秤を働かせている。
そう私、お酒は飲まないのに居酒屋は普通に行くし、何ならめっちゃくちゃ居酒屋好きなのだ。
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私が思う居酒屋の良いところは3つある。まず、色んなものをちょっとずつ頼めるところである。レストランだったら、やれオムライスだ、やれパスタだって何か一品頼んだらそれで終わりだ。それに比べたら居酒屋はどうだろう。トマト、ポテサラ、冷やっこ、フライドチキンに卵焼き、色んな料理をちょっとずつ頼んでシェアできるのだ。楽しいことこの上ない。
次に2つめは、居酒屋全体に漂っている、何とも言えない空気感だ。流行りのJ-POPが本来よりも早めのテンポで流れる中、仕事帰りの社会人とか、大学生のグループとかが、あらゆるしがらみを遠く忘れ去ったかのように騒いでいる、カオスのようなあの空間。同じ飲食店でも、ファミレスとかカフェではあの空気感にならない。他の飲食店にはないけれど居酒屋にならあるものって、何かを頑張って達成して、くったくたに疲れた人が羽目を外せる空気なんじゃないだろうか。この前、大学生の時に入っていた部活のメンバーで飲み会を開いた。全員の予定がなかなか合わなくて、結局集まったのは月曜日という思いっきり週初めの夜。仕事や学校など、それぞれの「やるべきこと」を終わらせて集まった私たちは、「さーあ今夜は楽しむぞ」という謎の使命感で一致団結。結果的にものすごく楽しい会になって、これから1週間頑張らなければいけないというのに、もはやすっかり華金の気分だった。いやあ、楽しかった、楽しかった。
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最後に、私が居酒屋を好きな理由3つめは、お酒を楽しんでいる人を見るのが好きだからだ。勿論、飲み過ぎて泥酔したり、周りにダルがらみするのは絶対だめだ。私の「お酒を楽しんでいる人を見るのが好き」は、自分も周りも困らない程度に、常識の範囲内で飲酒している人に限る。それで言ったら、前述の部活の飲み会に来ていたとある先輩は、私好みのお酒の飲み方をしてくれた。新しい1杯の最初の一口を飲むたびに「あー美味しいなあ」という満足げな表情を浮かべ、どれだけ飲んでも周りにダルがらみすることなく、普段と変わらないコミュニケーションを取ってくれる。まあ元々お酒に強い人なんだろうけど、見ているこっちも何だか心地よくなるようなお酒の飲み方をする人だった。
お酒を飲む人が、みんなみんなあの先輩みたいだったらアル中やアルハラはこの世からなくなるんだけどなあ。限りなく実現不可能に近い夢を見ながら、その夜も私はお冷をごくごくと流し込んだ。
私はこれからもお酒を飲まないだろう。でも居酒屋には好んで足を運ぶだろう。近くて遠い不思議な距離感は、これからも私とお酒の間に横たわる。私は飲み会のたびにトマトジュースとジンジャーエールを頼み続ける。