10年以上の付き合いになるロングスカートがある。白地に紺の小花柄が散りばめられた、風でふわっと膨らむ軽さのある夏スカートだ。
私が持つスカートの中でも群を抜いて涼しく、ポケットが右にも左にもついていて便利。故に10年以上、手放すことができないスカートである。
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20代後半の10年以上ということは、中学生や高校生の頃購入したもの。決して高価ではなく、リーズナブルなブランドのものではあるが、ヨーロッパのデザイナーとのコラボ商品だったため、デザイン性も高く、高見えする……と思っている。
「お気に入りの1枚」というわけではないが「名品」とでも言うべきか。私にとってはそんな存在である。
しかし、このスカートにはひとつだけ、欠点がある。そしてその欠点のために、このスカートは何度か存亡の機に立たされている。さて、このスカートが持つ欠点とは何なのか。それは、何故だか男受けがはちゃめちゃに悪いことである。
持ち主はもう意味が分からない。決して奇抜なスカートではないし、私に似合ってないわけでもないはずである。母にも父にも、弟にも聞いたけど……。
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「そのスカート、あんまり好きじゃない。履かないでくれる?」
大学4年生の夏、当時付き合っていた彼氏に言われたのが始まりである。始まりというか、その頃は単に彼の好みに合わなかっただけだと思っていた。年上で社会人だった彼は、私の服装にとやかく言う人だった。「男性は普通あまり女性のファッションに興味が無いけど、俺はあるよ」を自分の良い彼氏ポイントとして捉えていて、事あるごとに私に着て欲しい服を細かく伝えてきた。恋愛経験が少なめの私は、これは良いことなのだと思わされていたが、今の私なら「人のこと着せ替え人形か何かだと思ってる?彼女のファッションを褒めるんなら良いけど、けなししかしないじゃん」と言える。いや、言いたい。
あと、カラオケでは西野カナを歌ってほしいとか、下着はこういう色がいいとかも何なの?
将来、綺麗になりそうだから付き合ったとか言ったこともあったよな?光源氏と紫の上かよ、育成しようとすんなよ。今の私を丸ごと愛せよ!
……ああ、ごめんなさい。つい、愚痴が。
とにかく、私の名品スカートは「履かないでくれる?」と言われ、挙げ句の果てには「もう捨てればいいじゃん」とまで言われた。そして、当時の馬鹿な私は本当にゴミ箱に入れた。
入れたゴミ箱が、実家のリビングのゴミ箱で良かったね。「散歩の時とかに履きなさいよ」と母に救出された。
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先にも述べた通り、彼の好みに合わなかっただけだと思っていたので、彼と別れてしばらく経つと、またデートで履いていくようになっていた。
良い雰囲気の男性とのデートに着ていく度、なんとなく気がついてくるのである。ああ、これは彼だけに受けないのではない。多くの男性の受けが悪いんだ、と。
そんなこんなで恋愛体質な持ち主の「もう長く履いたしなぁ」と「女友達と遊ぶ時や、近場のちょっとしたお出かけに履けば良いか」の間を反復横跳びして、今日までこのスカートは生きながらえてきたのである。
この頃恋愛体質を卒業してきた私にとって、この男受けの悪いスカートは一層愛しいスカートになっている。デザインや機能面だけでなく、男受けが悪いからこそ、名品。思えば少し前の私は「男受け」に左右され過ぎていた。そんな少し前の私と「モテ」とか「男受け」という言葉に、密かに飛び蹴りを食らわすような気持ちで、私は今日もこのスカートを履く。