毎日の晩酌を欠かさない父と、普段一滴もお酒を口にしない母を持つ私は、めちゃくちゃお酒が強い訳ではないものの、そこそこ呑める。そして、お酒が好きだ。

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学生時代あまり友達が多い方ではなかった。旅行が好きだが、誰かを誘うのが億劫になり気づくといつも一人旅。でも完全に1人でいるのはちょっと寂しくて、旅先の居酒屋に1人で入ってはカウンターに座っていた。

お酒を飲んで気持ちがちょっと温まってくると、恥ずかしさや他人とコミュニケーションを取ることに対する億劫な気持ちなんて吹っ飛び、気付くと横に並ぶ常連さんやお店の人と会話が盛り上がって、旅先での何にも代えがたい思い出の1ページとして積みあがっていく、というのがお決まりになっていた。

社会人になり、2年目になると地元の東京を離れ関西に赴任となった。初めての一人暮らし、初めての家族や友人がいない土地での生活。両親は「寂しくないか?」「ちゃんとご飯食べなさいね」「こまめに連絡してね」と連絡をくれる。でも、そんな心配をよそに私は充実した毎日を過ごしていた。

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大学を卒業して就職してからは、当たり前だが学生の頃のように自由に使える時間がたくさんあるわけでもなく、ふらっと1人旅に出る時間もなかなか取れないでいた。朝起きて、会社に行って、慣れない仕事に疲れて帰宅し、寝て、またよく朝起きて、会社に行って……

単身、関西へ引っ越した私はとても身軽で、会社から与えられた寮は梅田の繁華街から比較的近かったのも幸いして、初めての土地にワクワクしながら毎日のように仕事帰りに外に飲みに行っていた。標準語で話す私に、お店の人や常連さんは決まって「お姉ちゃん、どこの人(どこ出身)なん?」と声をかけてくれる。

関西弁独特の店舗で弾む会話のキャッチボール。おすすめのお店を教えて持ったら今度はそっちに行ってみる。金色の液体とクリーミーな泡が注がれたキンッキンに冷えたジョッキをぶつけ合いながら「お疲れ様」と声を掛け合うのは、昔からの友人でもなく、会社でお世話になっている同期や先輩でもなく、でも常連としてよく顔を合わせる馴染みの人たち。

仕事で辛いことがあっても、ちょっと愚痴って、慰めてもらって、お酒を飲んで気持ちが良くなる。そんな距離感がとても心地よかった。

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楽しい日々を更に盛り上げたのが、2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップ。私が頻繁に足を運んでいた梅田の街にも多くの外国人が訪れていた。言葉が100%通じ合わなくても、一緒にビールを乾杯して盛り上がる。みんな笑顔。それもそれで楽しかった。

そんな日々を過ごしていた頃に急にやってきたのがコロナ禍だった。つい数か月前まで毎日のように外に飲みにっていた生活がまるで嘘のよう。

私も例に漏れず、自粛を余儀なくされた。家で一人で飲むのはちょっと物足りない。これだったらビールじゃなくてお茶でいいや。そしていつの間にか、お酒を飲む頻度は極端に減り、お酒と私の間には何とも言えない距離感が生まれていた。

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2023年夏、4年ぶりの「自粛のない夏」。会社の飲み会や、学生時代の友人たちとの久しぶりの集まる飲み会。久しぶりにお酒を飲む機会が増えた私は、心なしかすぐに酔っぱらってしまうようになった気がする。「そうだ、久しぶりに一人旅にでも出ようかな」.。

そう思った私は、夏休みを取って久しぶりに一人で知らない土地へ。もちろん初めてのお店に入り、カウンターに座った。隣の席に座っていたのは常連さんではなく私と同じ一見さんだったが、カウンターの中の店員さんと私と3人での会話は盛り上がる。ああ、これだ。楽しい。懐かしい距離感を思い出した、夏の思い出の1ページに刻まれる一夜を過ごした。