久しぶりに、お酒を飲んだ。
その日は音大時代の恩師に、「勉強会のあとに飲み会だから、良かったら来て」と誘われ、仕事終わりに駆けつけたのだった。お店に着いたのは20時半過ぎ。私の姿を見ると、先生は大興奮のハグで迎え入れてくれた。

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「先生、もう出来上がってるじゃないですか」
聞くと、飲み会自体は18時過ぎから始まっていて、もうすでに2時間半経過していた。そりゃ出来上がってるはずだ。

空腹だったから、一杯目はとりあえずウーロン茶を頼む。それなりに食べ物も頼んでから、二杯目にハイボールを注文した。今日は、久しく会ってなかった友人も来ていたので、後輩に無理言ってその隣に座らせてもらい、出来上がってる先生と、昼間から飲んできたという友人と何度も乾杯した。久しぶりに飲むお酒は、暑さにバテる体に、冷たく沁みた。

私は基本的にお酒は飲まない。体質に合わないのだ。何年も前、ビールをたくさん飲んだ日の翌朝、おしっこがビールの匂いがして驚いたことがある。どうやらアルコールを分解できないらしい。お酒が入っても、別に酔っ払わないし、ただ全身が真っ赤になって血管が脈打ち、挙句の果てには気持ち悪くなる。

かなり調整して飲まなければ、悲惨なことになってしまうの。だから家族といるときや、よっぽど気の置けない人といる時しか飲まない。しかし飲めそうな外見をしているらしく、飲めないと言うとしばしがっかりされる。

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いつもは全く飲めないスタンスを突き通しているけれど、気になる男性に「お酒飲む？」と尋ねられた時は、「ほんの少しだけ」とちょっと見栄を張って答えてしまう。
ある時、職場の先輩に、「普段飲まないって言ってる人が、男性とデートでご飯を食べてる時に珍しくお酒を飲むと、男性は気を許してくれてると思って、すぐ好きになっちゃうよ」とアドバイスされたことがある。

確かに先日、夕飯デートをした男性が、『一杯くらい、飲んで欲しいな…』とこぼしていた。その日は疲れていたし、翌朝も仕事で、しかも初対面だったから、飲めなかったのだ。申し訳ないけれど、隙のある女ではないのだ。

しばらくすると、「お手洗い行こう」と友人に誘われた。ふらつきながらお手洗いに行くと、鏡に映る自分は酷い顔をしていた。顔は赤黒く、口元には焼き鳥のタレがベッタリ着いていて、メイクはヨレて浮き上がっていた。あまりの酷さに我に返った。こんなに隙だらけの自分の姿を見るのは久しぶりだ。さすがに整えて席に戻ると、相変わらず酔っ払った先生が「膀胱が爆発しそう」と報告してきた。泣いたり笑ったり、先生が弟子に囲まれて幸せそうにしているのを見ると、こちらまで嬉しい気持ちになる。

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その日は大型台風が関西を直撃する予報の前日で、少し早めにお開きになった。湿度の高い8月の夜の街を、列をなして駅に向かう。足取りもおぼつかず、呂律も怪しい先生が、私が今日参加してくれたことがとても嬉しかったらしく、涙目になりながら必死になってそれを伝えてくれていて、私の方こそ、卒業して音楽からも離れてしまっているのに、こうして呼んでくれることに感謝した。

家族以外にこうして、想い合える大切な存在がいることがとても幸せなのだ。何かあれば、すぐに駆けつけるから、絶対に連絡してくださいね、と念を押す。

家に帰ってリビングの床に倒れ込むと、頭は冴えて起きているのに、目は開かず体は動かない。

「楽しかったんやね」
そんな私を見て、母が呆れたように笑っていた。楽しいお酒は好きだ。私がお酒を飲むのは1年に1度、あるかないかわからないくらい珍しいことだけれど、大切な人たちと過ごす貴重な時間は、大切にしていきたい。